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Team DiET Colloquium vol.20

成人成長ホルモン分泌不全症のガイドライン

Evaluation and Treatment of Adult Growth Hormone Deficiency
: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline
(J Clin Endocrinol Metab; 96(6):1587-1609 | June 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/6/1587.full.pdf


【背景】
 ・成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)患者に対するGH補充療法は1996年より認可された。
 ・治療の安全性に関しては,耐糖能悪化のリスクや下垂体/視床下部腫瘍や癌の発生率など
  長期的な安全性については今後も観察が必要である。
 ・AGHD患者へのGH補充療法の利点は,体組成・骨・心血管系リスク・QOLの改善にある。
  しかし、心血管系イベントおよび死亡率の減少についてはいまだ論証中であり、
  治療費も高価である。


【目的】
 ・2006年に発表された「成人成長ホルモン分泌不全症のガイドライン」のupdate
 ・AGHDの定義、GHDの診断と治療,GH補充療法の利点と副作用およびリスク、
  概要についてのupdate


【結果概要】
 <成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)の定義>
  ・AGHDには「幼少期発症の成長ホルモン分泌不全症(GHD)」
  「外傷や器質的病変による2次性のGHD」「成人発症の特発性のGHD」がある。
  ・また、「幼少期発症のGHD」については、一般的にさらに器質性/原因不明の2種に
   分類される。

 <成人成長ホルモン分泌不全症の評価について>
  ・幼少期発症のGHD患者で,成人期の身長が達成された後でGH補充療法候補者と
   なっている患者では,できる限りAGHDの再検査をすべきである。
  ・視床下部/下垂体疾患やその既往のあった患者さんには、後天性のAGHD評価を
   すべきである。
  ・他の下垂体ホルモン欠損の存在などがある患者さんにも、後天性のAGHD評価を
   すべきである。
  ・特発性AGHDは非常に稀であり,厳格な診断基準が必要ではあるが、
   臨床的証拠も少ないため、3種類のGH分泌刺激試験を行うこと提案する。
   また、IGF-1低値も診断の助けとなる。

 <GHDの診断について>
  ・臨床的に,成人におけるGHDでは脂肪量が増加,筋肉量が減少,エネルギーおよび
   QOLも低下する。
  ・インスリン負荷試験とGHRH-アルギニン試験は、GHDの診断に際し、十分な感度と
   特異度がある。
  ・しかし、最近(10年以内)の視床下部性原因によるGHD疑いの場合、
   GHRH-アルギニン試験では診断ミスとなりえるため、注意が必要である。
  ・GHDの診断に際し、GHRH-アルギニン試験が利用できず、インスリン負荷試験が
   禁忌の場合は、グルカゴン負荷試験が有用となりうる。
  ・多発下垂体ホルモン分泌不全(MPHD)を伴う幼少期のGHDでは、その原因は
   不可逆的であるため、GH療法を少なくとも1カ月中止した後でIGF-1が
   低値である場合には、追加のGH分泌刺激試験なしにpersistent(永続的な)
   GHDといってよい。
  ・IGF-1値正常でもGHDの除外はできず、GH分泌刺激試験を行うべきである。
  ・3つ以上のPituitary axes欠損を伴う場合、GHDが強く疑われるので,
   GH分泌刺激試験は任意とする。

 <成長ホルモン(GH)補充療法の利点>
  ・GH補充療法は、体組成や運動能力、骨に有益な効果を期待できる。
  ・permanent GHDと診断されたら、身長が基準値に達した後も、移行期における
   骨や筋肉の成長のためGH補充療法を継続すべきである。
  ・GH補充療法は、血管内皮機能や炎症マーカー・脂質代謝・頸動脈IMT・心機能を含む
   心血管への改善効果が期待できる。
  ・下垂体機能低下症患者やGHD患者では死亡率が増加するが、GH補充療法による
   死亡率改善は不明である。
  ・GH欠損患者へのGH補充療法は、QOLを改善させる。

 <GH補充療法の副作用およびリスク>
  ・GH補充療法は、悪性腫瘍が存在するときには禁忌である。
  ・糖尿病患者でのGH補充療法では,糖尿病薬の調整が必要である。
  ・AGHD患者におけるGH補充療法中は、甲状腺および副腎機能の
   モニターが必要である。

 <GH補充療法の概要>
  ・GH補充療法は個々に応じて低用量から開始し、臨床作用・副作用・IGF-1レベルに
   応じて調整する。
  ・GH投与量を検討する際は、性別・エストロゲンの状態・年齢を考慮する。
  ・GH補充療法中は、1-2ヶ月毎にモニターし、臨床作用や副作用、IGF-1レベル、
   GH反応の他のパラメータの評価が必要である。


【結論要旨】
 ・AGHDには、「幼少期からの発症」と「外傷や器質的病変による2次性発症」がある。
 ・幼少期発症のGHD患者以外にAGHDを診断するには、GH分泌刺激試験が必要である。
 ・GH補充療法は、体組成や運動能力、骨代謝、QOL向上に有益な効果を期待できる。
 ・GH補充療法によるリスクは低い。
 ・GH補充療法は、患者さん毎に用量を設定し、利点やリスクを考慮して行う必要がある。


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【Team DiET の議論】
 日本でのAGHD患者への成長ホルモン(GH)補充療法については、
 2006年にようやく保険適用となり、今後の治療拡大に期待が広がる分野である。

 現在の日本のガイドラインでは、糖尿病患者へのGH補充療法は禁忌とされており、
 全ての患者さんがGH補充療法を受けられる状況ではない。
 しかし、GHの分泌過剰が糖尿病を誘発することは知られていても、インスリンに対する
 GHの作用メカニズムは明らかになっておらず、今後の研究が待たれるところである。

 GH補充療法には多くの利点があるが、問題となるのは、患者さんへの医療費負担である。
 小児の成長ホルモン分泌不全性低身長症におけるGH療法については、
 標準身長-2.0SD以下であれば治療は受けられるが、助成が受けられるのは、
 標準身長-2.5SD以下であり、診断基準より厳しくなっている。
 今回はAGHDのガイドラインであったが、Permanent GHDと診断されたら、
 身長が基準に達した後も、継続的にGH補充療法を行うべきとしている。
 今の日本では現状で実施した場合、患者家族への負担が更に大きくなってしまうため、
 ガイドラインと同時に助成体制についても考慮が必要であると考える。


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