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Team DiET Colloquium vol.24

ステロイド性(グルココルチコイド依存性)骨粗鬆症に対する治療

Glucocorticoid-Induced Bone Disease
(N Engl J Med 2011; 365:62-70 | July 7, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcp1012926


【症例】
 ・55歳女性
 ・体重:45.5kg、身長:157.5cm、BMI:18
 ・基礎疾患:気管支喘息
 ・処方薬:
   ・PSL(ステロイド系抗炎症薬)10㎎(3か月前より)
   ・吸入β刺激薬
   ・吸入ステロイド
   ・ロイコトリエン拮抗薬
   ・過去には15㎎以上のPSL内服歴あり

 ◎上記症例について、どのような治療を勧めるべきか?


【ステロイド性(グルココルチコイド依存性)骨粗鬆症について】
 ・ステロイド性骨粗鬆症は、関節リウマチや閉塞性肺疾患などの炎症性疾患に対して
  処方されるステロイドの長期的使用が関与して起こるとされており、
  2次性骨粗鬆症の主要な原因とされる。
 ・骨密度低下速度は、6〜12%/初年、その後は約3%/年である。
 ・しかし、ステロイド投与開始後3カ月以内であり、骨密度が十分に低下していなくても、
  骨強度の低下の影響により、骨折リスクは増加する。
 ・ステロイドの少量投与(2.5~7.5㎎/日)、間欠的・隔日投与でも骨折のリスクは増加する。

【危険因子について】
 ・ステロイド性骨粗鬆症の危険因子に関する危険因子は、加齢、BMI<24、
  基礎疾患などが挙げられるが、重要な要因として、11β-HSD系の酵素がある。
 ・11β-HSDはグルココルチコイドのホルモン活性を調整しており、活性化因子の11β-HSD1は
  加齢に伴い増加するため、高齢者で骨折リスクが高くなる原因の1つと考えられている。

【病因について】
 ・過剰なグルココルチコイドは、破骨細胞と骨芽細胞の産生を共に減少させるが、
  破骨細胞の寿命は延ばし、骨芽細胞の寿命は短くするため、骨形成のバランスが崩れる。
 ・そのため、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症は、骨形成の低下が主体である。

【ステロイド(グルココルチコイド)の使用にあたって】
 ・患者さんには、ステロイドの副作用や合併症については、頻度の少ないものであっても、
  説明する事が必要である。
 ・身長の測定は、極端な低下により脊椎圧迫骨折の既往を示唆するため重要である。
 ・ステロイド性骨粗鬆症では、骨強度が骨折リスクに関与するため、
  骨密度測定のみではリスクを決定できないが、参考所見・介入後の評価には有用である。
 ・骨のターンオーバーは低下しており、骨代謝マーカーの測定は有用ではない。

【ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインについて】
 ・さまざまな国や団体において、ガイドラインは多少異なっているが、ステロイド療法の
  最小投与量や投与期間と骨折リスクの関係については、確実性に欠けている。
 ・日本のガイドラインでは、3ヶ月以上ステロイドを使用予定の患者において、
     ・PSL(ステロイド系抗炎症薬)≧5㎎/日 
     ・骨折の既往
     ・骨密度がYAM(若年成人平均値)<80%
  いずれかを満たせば介入することとなっている。

【ステロイド性骨粗鬆症の治療について】
 ・Ca(1200㎎/日)とビタミンD(800~2000U/日)の摂取は、全ての患者が行うべき
  であるが、これら単独では骨折予防に不十分である。
 ・ステロイド性骨粗鬆症の治療の第一選択薬は、ビスホスホネートである。

【ビスホスホネートについて】
 ・ビスホスホネート製剤は、破骨細胞を抑制し、骨吸収を減少させる。
 ・しかし、その他の骨粗鬆症患者に対する効果と比較して、ステロイド性骨粗鬆症患者における
  骨密度の保持に対する効果は低い。
 ・経口ビスホスホネート製剤は、適切に服用するのが難しく、アドヒアランスが低かったが、
  週1回の服用の薬剤や年1回の点滴薬剤(ゾレドロネート)が開発され、
  アドヒアランスの向上が見込まれる。
 ・ステロイド内服中は、ビスホスホネートは継続すべきである。
 ・ビスホスホネート製剤は、大腿骨壊死の治療に使用されるが、副作用として顎骨壊死の
  原因となる。
 ・しかし、顎骨壊死の推定リスクは、10000〜100000患者年あたり1人である。

【テリパラチドについて】
 ・遺伝子組み換えヒト副甲状腺ホルモンで、1日1回の皮下注射で投与される。
 ・ステロイドによる骨芽細胞・骨細胞のアポトーシスの増加、骨芽細胞数や骨形成、
  骨強度の減少を予防する。
 ・遺伝子組み換えホルモンのため、コストが高く、副作用として高Ca血症がある。

【デノスマブについて】
 ・6か月に1回の皮下注射。
 ・破骨細胞の働きを抑制し、骨吸収を速やかに減少させる。
 ・閉経後骨粗鬆症に対してFDAに認可されたが、ステロイド性骨粗鬆症には認可はされていない。

【推奨する治療について】
 ・冒頭で説明された患者は、高齢で痩せ形、3ヶ月間のPSL10mg/日内服をしており、
  また、過去に高用量のPSL内服歴を持っている。
 ・そのため、骨密度測定やレントゲンで椎骨の形態・圧迫骨折の有無を調べ、相互判断を行い、
  ステロイド性骨粗鬆症のリスクが高いと診断された。
 ・治療介入としては、十分量のCaとビタミンDの摂取を行い、下記のいずれかの内服を
  少なくともPSL内服中止まで継続する。
    ・ビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロネート)
    ・テリパラチド
 ・ゾレドロネートとテリパラチドは、経口ビスホスホネート製剤と比較して、効果発現が早いが、
  これらの薬剤は高価であり、テリパラチドについては、毎日の皮下注射が必要である。
 ・薬剤の選択については、「コスト」「便利性」「副作用」で選択する。


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【Team DiET の議論】
 日本のステロイド性骨粗鬆症についてのガイドラインでは、ステロイドの3ヶ月以上の
 投与予定があれば、骨密度の低下がなくても、骨折の既往があれば、薬剤の使用が
 認められている。
 ステロイド性骨粗鬆症では、骨密度の低下前に骨強度が減少し、骨折リスクが高まるため、
 早期の投与を考えたいところではある。
 しかし、日本でステロイド性骨粗鬆症に対して投与が認められている薬剤は、アドヒアランスの
 悪い経口ビスホスホネートしかなく、医療関係者が充分に服薬についての説明を行い、
 患者さんがどれだけ服薬に真摯に向き合えるかが問われる。

 経口ビスホスホネートに続く薬剤についても、開発はされているが、様々な臨床試験において、
 ステロイド性骨粗鬆症で最も重要とされる骨折リスクをエンドポイントとせず、
 経口薬と比較した骨密度で評価を行っているため、相対的に評価が行えていないのは問題である。

 ステロイド性骨粗鬆症については、加齢やBMIによって影響を受けることは判っているが、
 ステロイドの使用量、使用期間については、まだまだ不明確な部分も多いため、
 今後のエビデンスの蓄積を待ちたい。


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