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Team DiET Colloquium vol.29

2型糖尿病および肥満患者の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症ついて

Update: Hypogonadotropic Hypogonadism in Type 2 Diabetes and Obesity
(J Clin Endocrinol Metab; 96(9):2643-2651 | September 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/9/2643.full.pdf

【背景】
 ・2型糖尿病と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(HH)の関連性は明らかにされており、
  米国の内分泌学会では、2型糖尿病患者の定期的なテストステロン測定を推奨している。

 ・1型糖尿病患者ではHH発症は少ないため、高血糖状態がHH発症に関与しないと考えられ、
  インスリン抵抗性に関係があるとされている。

 ・これまでの研究でHHは、肥満・インスリン抵抗性・メタボリックシンドロームと関連があり、
  テストステロン濃度は、年齢およびBMIと反比例の関係とされていた。
 ・しかし、2型糖尿病で低BMI患者のうち、25%がHHを発症しており、
  低テストステロン症の発症は、必ずしも肥満に依存しないとされた。

 ・最近の研究では、肥満はHHの高い罹患率に関係しており、更に糖尿病を伴うことで
  HHを発症する危険性は高まる。

 ・様々な研究でテストステロン低値は、死亡率増加との関連性が示されているが、
  糖尿病患者におけるテストステロン低値は、前立腺癌の発症を抑えるという報告もあり、
  テストステロン補充療法の是非が問われている。


【目的】
 ・低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(HH)を発症した2型糖尿病および肥満患者における
  テストステロン補充療法について検討を行う。


【結果概要】
 <心血管疾患リスクについて>
  ・テストステロン濃度が正常の1/4以下の場合、正常群と比較し、心血管疾患による死亡率は
   1.36倍であった。
  ・他の研究でも、テストステロン低値が心血管疾患による死亡率増加に関与するとしているが、
   関連性が認められない研究もあり、理由としては、対象が比較的若年層であり、
   本来死亡率が低い母集団であるためとしている。

 <インスリン抵抗性との関連について>
  ・1型糖尿病患者ではHHの発症は少ないため、インスリン抵抗性に関連があると
   多くの研究で述べられているが、実際に2型糖尿病患者を対象とした
   テストステロン正常群と低値群との比較研究はない。

 <ヘマトクリット値との関連ついて>
  ・2型糖尿病男性で、HH群は正常群と比較し、ヘマトクリットが低値である。
  ・正球性正色素性貧血の有病率は、正常群で3%であるのに対し、HH群では38%である。
  ・しかし、2型糖尿病におけるHHと貧血との関連は、明らかになっていない。

 <骨折リスクついて>
  ・HHは、骨密度の減少と骨折率の増加に関与する。

 <PSA値との関連ついて>
  ・2型糖尿病男性は、非糖尿病男性に比べ、PSAが20%以上低値である。
   更に2型糖尿病男性において、HH群は、正常群と比べてPSAは低値である。
  ・前立腺癌の発生率は、2型糖尿病男性で低くく、その他の癌の発生率の増加と対照的である。
  ・2型糖尿病男性における前立腺癌の減少率は、HHと低テストステロン濃度よると
   考えられるが、これを立証する疫学研究はない。

 <2型糖尿病患者におけるテストステロン測定ついて>
  ・2型糖尿病患者における遊離テストステロン低値の頻度は少なくとも25%はあるため、
   遊離テストステロン濃度は全ての2型糖尿病患者で測定されるべきであると考える。
  ・これは、米国の内分泌学会のガイドラインに準じる。

 <テストステロン補充の必要性ついて>
  ・米国内分泌学会は、低テストステロンとアンドロゲン欠乏の症状を持つ男性が、
   テストステロンの治療を考慮されることを推奨している。
   しかし、ガイドラインでは、無症状の男性の治療は奨めていない。

  ◎インスリン抵抗性に及ぼす効果
   ・HHの2型糖尿病男性に3ヶ月間テストステロン補充を行ったところ、プラセボ群と比較し、
    インスリン感受性に大きな改善をもたらした(HOMA-IRで-1.73)。
   ・HHの2型糖尿病または肥満の男性に1年間テストステロン補充を行ったところ
    (TIMES2試験)、どちらの群もプラセボ群と比較して、インスリン感受性に
    大きな改善をもたらした(HOMA-IRで、2型糖尿病患者は-0.91、肥満患者では
    -0.55の差があった)。
   ・HHの非肥満2型糖尿病男性に3ヶ月間低用量のテストステロン補充を行ったところ、
    プラセボ群と比較し、インスリン感受性に変化は見られなかった。
   ・これらの研究より、HHの肥満2型糖尿病男性においては、テストステロン補充により
    インスリン抵抗性が改善されることを示している。

  ◎血糖コントロールに及ぼす効果
   ・HHの2型糖尿病男性に3ヶ月間テストステロン補充を行ったところ、プラセボ群と比較し、
    空腹時血糖(28mg/dl)とHbA1c(0.37%)の減少を示した。
   ・HHの2型糖尿病男性に1年間テストステロン補充を行ったところ(TIMES2試験)、
    プラセボ群と比較し、HbA1cに改善傾向が見られたが、6ヶ月時に薬の変更を
    許可したため、改善がテストステロン補充による効果は不明である
    (6ヶ月時でのHbA1cでは改善なし)。
   ・これらの研究より、2型糖尿病男性におけるテストステロン補充は、HbA1cの緩徐な
    低下を見せるが、データに一貫性がなく、現時点で血糖コントロールのために
    テストステロン補充をすることは推奨できない。

  ◎身体組成に及ぼす効果
   ・HHの2型糖尿病男性に1年間テストステロン補充を行ったところ(TIMES2試験)、
    プラセボ群と比較し、ウエスト径が有意に減少したが、BMIに変化はなかった。
   ・これらの研究より、2型糖尿病男性におけるテストステロン補充は、筋肉量が増えるため
    ウエスト径は減少するが、BMIは変化しないことを示している。

  ◎心血管イベントに及ぼす効果
   ・HHの2型糖尿病または肥満の男性に1年間テストステロン補充を行ったところ
    (TIMES2試験)、どちらの群もプラセボ群と比較して、心血管イベント発生率は
    低かった。
   ・しかし、2型糖尿病や肥満を対象とせず、限られた運動のみできる高齢男性(>65歳)を
    対象に行ったテストステロン補充試験では、プラセボ群と比較し、心血管イベントの
    早期発生率が高まったため、試験が中止になった。
   ・これは対象者に慢性疾患の有病率が高かった可能性もあり、他の高齢者集団による
    研究では、テストステロン補充により心血管イベントが増加する報告はされていない。
   ・また、別の研究では、慢性心不全の高齢者にテストステロン補充を行ったところ、
    プラセボ群と比較し、運動能力、筋力、インスリン抵抗性、圧反射感受性を
    改善することが報告された。


【結論要旨】
 ・2型糖尿病男性の25%が低ゴナドトロピン性腺機能低下症(HH)であり、
  また2型糖尿病男性の4%が高ゴナドトロピン性腺機能低下症である。
 ・2型糖尿病男性におけるテストステロン低値は、性腺機能低下症(HH)・肥満・
  非常に高いCRP濃度・軽度の貧血・骨密度の減少に相関している。
 ・更にこれらの男性は、心血管イベントと死亡のリスクが2~3倍となる。
 ・テストステロン補充の短期試験では、性欲・インスリン感受性の増加、血糖・身体組成・
  コレステロール・CRP濃度を改善し、心血管リスク因子を減少させる。
 ・しかし、2型糖尿病のHH患者にテストステロン補充の利点とリスクを決定的に
  確立するために、長期間の試験は明らかに必要である。


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【Team DiET の議論】
 男性ホルモンにしても、女性ホルモンにしても、医療がこれだけ発達した現代においても
 謎が多い分野である。

 金沢大学附属病院でも泌尿器科が中心となり、「男性ホルモンが生活習慣病に与える影響」
 について大規模で長期的な臨床試験を行った。
 全体的には、テストステロン補充療法が画期的に生活習慣病の予防や改善する結果には
 至らなかったが、当研究室で観察した患者(2型糖尿病)については、糖負荷試験を
 実施しており、更なる解析を行う予定である。
 HH発症にはインスリン抵抗性が関与しているとされるが、米国人と異なり、
 インスリン分泌不全が多いアジア圏の2型糖尿病が、テストステロン補充により改善が
 見られるのか、解析結果が楽しみである。

 性ホルモンの分野は解明されていない部分が多いが、その分、これから研究をはじめる
 若い医師にとっては、世界的権威を目指せる面白い専門分野になると思う。
 内分泌は地味ではあるが、一生研究を続けられるという点では最も楽しい分野であるといえる。


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