Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.3

甲状腺機能亢進症に対する放射性ヨード治療

Radioiodine Therapy for Hyperthyroidism
( N Engl J Med 2011; 364:542-550 | February 10, 2011 )
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMct1007101

【症例】
37歳 女性
動悸・震え、呼吸苦、9kgの体重減少を呈して、Graves病(甲状腺機能亢進症)の診断を受けた。
診断時、彼女には眼症の活動性所見や複視はなく、わずかに眼球突出がありました。
甲状腺サイズは標準の約2倍で結節はなく、freeT3 655ng/dl、freeT4 5.7ng/dlでした。
彼女は1年間メチマゾールで加療を受け、
甲状腺ホルモンは正常値(freeT3 345ng/dl、freeT4 2.8ng/dl) になった。
彼女は、10週間前に動悸と震えでメチマゾールを中止した。
彼女は3歳の娘がいて、再び妊娠したがっている。


【甲状腺機能亢進症について】
・女性の約0.6%に見られる
・1年あたりの発症率は、女性で0.04%
・男性の発生率は、女性の発生率の25%以下
・甲状腺機能亢進症の疾患で最も多いのはGraves病
 ※ヨウ素が欠乏している地域では、toxic adenomaやmultinodular goiterの方が多い
・未治療の場合、心房細動、心筋障害、慢性心不全などの心血管疾患につながる
・重篤な甲状腺中毒症(甲状腺クリーゼ)の死亡率は20~50%


【甲状腺ホルモンの作用機序について】
 ≪Genomic action≫
  ・甲状腺ホルモンは特定の受容体(TRs)に結合することによって作用する
  ・ほとんどすべての組織で遺伝子転写を変更する
 ≪Nongenomic action≫
  ・細胞膜や細胞質上にあるインテグリンに結合することによって作用する
  ・Na/H輸送体の発現、βアドレナリン受容体の発現、腫瘍細胞増加、血管新生などを起こす


【Graves病について】
・甲状腺刺激ホルモン受容体にアゴニストとして機能する抗体によって
 引き起こされる自己免疫疾患
・自然寛解は約30%の患者に起こりうる
・患者の約1/3は特有な眼症をきたす
  ※toxic adenomaやmultinodular goiterはophthalmopathyは起こさない。


【甲状腺機能亢進症の治療について】
・根治治療として、放射性ヨード療法および外科的切除がある
・抗甲状腺薬は放射性ヨード療法の前や手術の前に数週間の投与される。
 また、Graves病の症状寛解目的のため1~2年間投与される 
  ※toxic adenomaやmultinodular goiterは、抗甲状腺薬投与では寛解が期待できない


【放射性ヨード治療成功後の実際】
・TSHの抑制は長引くため、freeT4とT3測定は欠かせない
・80~90%の患者で甲状腺機能不全
・14%の患者は追加投与が必要

【放射性ヨード治療後の制限】
・アメリカでは放射性ヨード治療は外来管理(日本では入院)
・国によって大きく制約が異なる
・通常1週間、子供や妊娠している女性との接触を避ける
・その他の大人へ近接制限は軽度(例えば、1.8m以内は2時間まで) 

【放射性ヨード治療による副作用】
・放射線甲状腺炎
・癌化のリスクはないとされる
・治療1年以内に心血管疾患から死亡するリスクが増加するが、甲状腺中毒症の結果と考えられる


【甲状腺機能亢進症治療の新しいガイドラインについて】
・American Thyroid Association と American Association of Clinical Endocrinologists Thyroid Associationからガイドラインが今年に出ることが期待される
・患者の状態、ライフスタイル、価値観を考慮して各治療の利益、リスクに重点を置いている
・抗甲状腺薬による前処理が必要なケースは高齢者、基準値の2、3倍の甲状腺ホルモン値の人、心血管疾患合併者
・外科的切除はgraves眼症や活動性の激しい人で
・ステロイドの併用は活動性があり、眼症があったり、喫煙家で
・子供は抗甲状腺薬で治療されるが、10歳以上の子供にはいずれによる治療もOK

【推奨する治療について】
冒頭で説明された患者は、放射性ヨード療法の立派な候補者である。
彼女の主治医は今回のケースで放射性ヨード療法を推奨するだろうが、
娘(3歳)の保育問題、不妊期間の短縮やophthalmopathyの悪化(美容の問題)から外科的切除を選ぶかもしれない。
また、彼女は傷跡や放射性物質を嫌い、抗甲状腺薬を再開する治療を選択するかもしれない。
どの治療を行う上でも重要な事は、どの治療を選択するかについて、患者と話し合うことです。


---------------------------------------------

【Team DiET の議論】
放射性ヨード治療を行い甲状腺中毒症が改善されるまで、通常なら6~18週間かかるが、
抗甲状腺薬で前処置した場合は3~7日間で改善されており、飛躍的に効果が上がっている。
その理由については、メチマゾールが有機化をブロックし、ヨードが甲状腺内に残り、
より効果的に作用するからであると考える。
また、甲状腺機能亢進症を治療するにあたり、日本は唯一の被爆国でもあることから
治療に放射性物質が使われると聞くとためらう患者も多いだろう。
アメリカと日本で治療法の選択、患者の好みは大きく異なるため、ガイドラインを鵜呑みにせず、
患者とよく議論し、患者の状態・ライフスタイル・価値観を重視した治療法の選択が重要である。


メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。