Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.32

世界的に見た1980年以降の空腹時血糖値と糖尿病有病率について

National, regional, and global trends in fasting plasma glucose and
diabetes prevalence since 1980
: systematic analysis of health examination surveys and epidemiological
studies with 370 country-years and 2・7 million participants
(The Lancet, Volume 378, Issue 9785, Pages 31 - 40, 2 July 2011)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60679-X/abstract

【背景】
 ・糖尿病発症には食事や生活習慣が大きく影響をしていることは明らかであり、
  これらへの介入が必要であるとしながらも、世界的規模で近年の糖尿病有病率を分析した
  報告はされていない。


【目的】
 ・199カ国、270万人のデータを解析し、1980~2008年の約30年間での地域別に見る
  糖尿病有病率および空腹時血糖値(FPG)変動の傾向を調査する。


【方法概要】
 ■対象
  ・MedlineおよびEmbaseから抽出された論文データ
  ・個人的に入手した13の研究データ
  ・共同研究グループが行った154の健康調査データ
  ・疫学研究データおよびWHOの情報

 ■指標:空腹時血糖
    (血糖測定法の違いについては体系的にに変換。(例)全血の血糖値は ×1.11倍)
    (年齢・国・実施年で補正するため階層ベイズ法を用い、FPGの平均値と変動を統一した)

 ■糖尿病発症の定義:以下のどちらかを満たす
  ・空腹時血糖が126 mg/dl以上(ADAの診断基準)
  ・血糖降下薬の使用


【結果概要】
  ◎年齢調整後の世界平均FPG(10年ごと)
    ・男性:1.26 mg/dlずつ上昇
    ・女性:1.62 mg/dlずつ上昇
  ◎年齢調整後の世界平均FPG(2008年)
    ・男性:99.0 mg/dl
    ・女性:97.6 mg/dl

  ◎年齢調整後の糖尿病有病率
   【1980年】
    ・男性:8.3%(95%信頼区間:6.5-10.4)
    ・女性:7.5%(95%信頼区間:5.8-9.6)
   【2008年】
    ・男性:9.8%(95%信頼区間:8.6-11.2)
    ・女性:9.2%(95%信頼区間:8.0-10.5)
      ※40%が中国・インド、10%がアメリカ合衆国・ロシア
       12%がブラジル・パキスタン・インドネシア・日本・メキシコ

  ◎糖尿病患者数
    ・1980年:1億5300万人
    ・2008年:3億4700万人(30年間で1.94億人の増加(2倍以上!))
      ※そのうち70%は人口増加と高齢化で説明可能

  ◎地域別の結果
    【オセアニア】年齢調整後FPG(2008年)<<最も高い>>
     ・男性:109.6 mg/dl
     ・女性:109.4 mg/dl
    【アフリカ/サハラ周辺】年齢調整後FPG(2008年)<<最も低い>>
     ・男性:94.9 mg/dl
    【アジア太平洋諸国】年齢調整後FPG(2008年)<<最も低い>>
     ・女性:93.1 mg/dl

  ・東・南東アジア、中央・東ヨーロッパでは平均血糖値はほとんど変化していない。
  ・2008年の年齢調整後FPGが高い:
    南アジア、ラテンアメリカ、カリブ諸国、中央アジア、北アフリカ、中東
  ・2008年の年齢調整後FPGが低い:
    サハラ以南のアフリカ、東・南東アジア・アジア太平洋の高所得国
  ・高所得小地域については、西ヨーロッパで最も上昇が少なく、北アメリカで最も
   上昇が大きかった。


【結論要旨】
  ・人口増加と高齢化、年齢特異的な有病率上昇によって、糖尿病は世界的に増加している。
  ・糖尿病の一次予防には、体重管理・身体活動・食事の質の向上が必要である。
  ・しかし、集団へのこれらの介入は困難であり、短期では糖尿病罹患率減少の効果は望めない。
  ・ほとんどの国で糖尿病の予防と進行の抑制による大血管*微小血管の合併症予防の健康政策は
   避けては通れないだろう。


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【Team DiET の議論】
 FPG変化がほとんどない国とオセアニアのような著明な上昇があった国が存在するのには、
 BMIの影響が大きいとしながらも、BMIについてのグラフや数値が明記されていなかったのは、
 いささか残念である。

 当研究室での研究では、女性の場合、少なくとも閉経前まではBMIが高くても、代謝異常は
 増大せず、糖尿病のリスクは低いと発表している。
 しかし、ワシントン大学におけるハワイでの研究によると、代謝異常はBMI上昇の影響を
 受けるとしている。
 こういった経緯からも、BMIと地域差による糖尿病患者数についても論じて欲しかったと思う。

 2009年に発表された論文「Life and death during the Great Depression』
 (Proc Natl Acad Sci U S A.)によると、世界大恐慌の際、米国では寿命が延びたと
 報告している。
 現在、ギリシャでは暴動が起き、スペインでは経済危機が起こっている。
 そのため、ギリシャでは外食をしない人が増え、スペインの男性失業率は40%となっている。
 これらのエコノミックな要因が、肥満や糖尿病、平均寿命にどのような影響を与えるのか、
 研究者として興味がある。
 お金がないことから生じるインタラクションが、ヘルシーな食事につながり健康を導くのか、
 病院へ行くことができなくなり不健康につながるのか、研究の結果を見たいものである。



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