Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.38
RT−CGM(リアルタイムCGM)による血糖測定の適応について
Continuous Glucose Monitoring
: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline
(J Clin Endocrinol Metab; 96(10):2968-2979 | October 1, 2011)
http://jcem.endojournals.org/content/96/10/2968.full.pdf
【背景】
・著名な高血糖・低血糖の回避に加え、正常値付近できっちり血糖コントロールを行う事で
マクロおよびミクロの合併症を抑える事ができる。
・1日数回の自己血糖測定では、適切な血糖コントロールを達成できない患者が存在し、
リアルタイムで連続した血糖値を表示・測定できるRT-CGMが注目を浴びているが、
患者への適応基準については、明らかとなっていない。
【目的】
・RT−CGMが有効性を発揮する糖尿病患者について、臨床的なガイドラインを作成する。
【結果概要】
≪入院中の成人について≫
◎ICU患者、術中患者にRT−CGMのみで血糖モニタリングを行う事は強く避けるべきである。
◎しかし、低血糖を伝える事ができないICU患者や術中患者には、他の機器と併用で使用する
限りにおいては、RT−CGMの使用を推奨する。ただし、RT−CGMで得られた血糖値で
インスリン量を調整する時は、医師の的確な判断が必要である。
<理由>
・低血糖を起こさないようにするため、ICU患者には、通常インスリン療法(CIT)を
行うが、その際に何を使用して血糖を測定し、どこで採取した血液で検査するのかが
論争の的になっている。
・ICU患者や術中患者には、通常POC(患者さんのそばで行う臨床検査)にて
血糖測定が行われるが、検査と検査の間の低血糖を見落とす可能性が指摘されている。
・その点、連続血糖モニタリングできるRT-CGMであれば、低血糖を見落とす可能性は
低いと考えられるが、通常の血糖測定と異なり、細胞間質液(ISF)にて測定を
行うため、その精度が問われている。
・通常の糖尿病患者であれば、ISFと血液での血糖値に差はないとされているが、
ICUの高インスリン血症患者では、10%以上の誤差が生じたと報告されている。
・しかし、ICUの低血圧症・低体温症・浮腫患者では、誤差は生じなかった。
・実際に、ICU患者のCGM(RT−CGMも含む)と採血データで低血糖の検出感度を
比較してみると、ほとんど同じであったが、CGMが血糖値を過大評価し、低血糖を
見逃したという報告もあった。
≪通院中の子どもおよび青年について≫
◎ HbA1c 7.0%(NGSP値)以下にコントロールされている1型糖尿病患者に、
更に血糖コントロールを行う際、RT−CGMを使用する事を強く推奨する。
<理由>
・国際若年性糖尿病財団(JDRF)が行った「CGMまたは通常の血糖測定での
低血糖減少効果比較試験(JDRF-CGM study)」では、対象者の48%が
24歳以下であり、6ヶ月間の観察期間の結果は以下の通りであった。
・CGMを行った群では、70mg/dL以下の低血糖が37分間減少(有意差なし)
・1日を通して、CGMの方がより良い血糖コントロールであった
◎常用できるのであれば、HbA1c 7.1%(NGSP値)以上の1型糖尿病患者の
血糖コントロール目的に、RT−CGMを使用する事を強く推奨する。
<理由>
・若年1型糖尿病患者が対象に含まれる「CGMと通常の血糖測定を対象に行われた
臨床試験(The DirecNet GlucoWatch 2 Biographer, Guard Control,
STAR-1, JDRF-CGM study)において、CGM群が通常の血糖測定群に比べ、
HbA1c を低下させることが判った。
・また、重症の低血糖患者の発生率もCGM群で低いことが判った。
・しかし、若年であるほどCGMを常時装着しない傾向があり、CGMの効果が
明確とはいえない。
◎8歳未満の1型糖尿病患者にRT−CGMの使用は強く避けるべきである。
<理由>
・8歳未満の1型糖尿病患者を対象とした「CGMを使用したランダム化試験」は
始まっていますが、結果はまだ報告されていません。
・その他の研究データから、CGMの使用で8歳未満の1型糖尿病患者の
血糖コントロールが改善する報告もありますが、絶対的な被験者数が少なく、
エビデンスとして確立していない。
◎RT−CGMによって得られる情報を用いて、治療ガイドラインについて、患者教育を
行う事を提案します。
<理由>
・実際にRT−CGMを使用した患者教育を使用した比較試験がないため、
エビデンスレベルは低いですが、有用であると考える。
・DirecNet試験(小児1型糖尿病患者に対する連続的血糖測定器を用いた比較試験)を
行った研究所では、RT−CGMの使用についてのガイドラインを開発し、
実際に使用を始めています。
◎夜間低血糖・暁現象・食後高血糖が懸念される患者や低血糖症状のない患者、
治療法に大きな変化のあった患者にRT−CGMを短期的に使用する事を提案します。
<理由>
・小児1型糖尿病患者に対する連続的血糖測定器を用いた比較試験において、
SMBGでは明白でなかった夜間低血糖や食後高血糖のパターンを明らかにした。
・しかし、1型糖尿病患者を対象としたJDRF-CGM study において、
CGMまたはSMBGを用いて血糖測定を行った8〜24歳のHbA1cに有意差がなく、
また、26週の観察期間において、週に6回以上CGMを使用した患者数は、
40%と低い値であった。
≪通院中の成人について≫
◎ HbA1c 7.0%(NGSP値)以下にコントロールされている1型糖尿病患者に、
更に血糖コントロールを行う際、RT−CGMを使用する事を強く推奨する。
<理由>
・1型糖尿病患者対象のJDRF-CGM studyやthe Guard Control Studyでは、
SMBGよりもRT-CGMで血糖を測定した群が、HbA1cが大きく低下したと報告した。
・JDRF-CGM study終了後、6ヶ月を経過しても、CGM群のHbA1cの改善は続いた。
・また、重症の低血糖患者の発生率もCGM群で低いことが判った。
◎常用できるのであれば、HbA1c 7.1%(NGSP値)以上の1型糖尿病患者の
血糖コントロール目的に、RT−CGMを使用する事を強く推奨する。
<理由>
・JDRF-CGM studyにおいて、試験終了後6ヶ月を経過しても、CGM群は
SMBG群に比べ、HbA1cを7.0%以下に保てることが判った。
・また、低血糖の発生率もCGM群で低いことが判った。
◎夜間低血糖・暁現象・食後高血糖が懸念される患者や低血糖症状のない患者、
治療法に大きな変化のあった患者にRT−CGMを短期的に使用する事を提案します。
<理由>
・1型糖尿病患者を対象としたJDRF-CGM study において、
CGMまたはSMBGを用いて血糖測定を行った25歳以上のHbA1cは
CGM群で有意に低下し、また、26週の観察期間において、週に6回以上CGMを
使用した患者数は、83%と高い値であった。
【結論要旨】
・RT-CGMは、良好な血糖コントロールおよび低血糖の低減に有効です。
・しかし、ICU患者や術中患者のRT−CGM単独使用や8歳未満の使用は強く避けるべきです。
・また、推奨する患者においても、ルーチンでRT-CGMを使用していく事は、
医療経済的な問題もあり、今後の検討・改良が待たれる。
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【Team DiET の議論】
日本でもCGMが承認されて3年以上が経過し、測定が行われる機会も増えているが、
CGMの結果をどのように患者へフィードバックし、どのように考えてインスリン量を
調整するかは明らかとなっていない。
今回のガイドラインでも、通院中の患者にRT−CGMの使用を強く推奨しているにも関わらず、
測定された血糖値への患者側の対処法について、明確化されていなかったのは残念である。
「血糖値:70mg/dL」と患者が見た時、「低血糖」と考えると思うが、その血糖値は、
上がり調子の70mg/dLなのか、下がり調子の70mg/dLなのかで、対処法に大きな違いがある。
通院患者にも使用価値の高いRT−CGMであれば、「誰に使う」、「いつ使う」だけではなく、
結果の取り扱い方についても、明確にしていくべきだと思う。
海外では、リアルタイムで血糖値が判るRT−CGMが承認され、CGMの主流になりつつあるが、
残念ながら、日本では承認は降りていない。
この事実について、「また海外から取り残される」と悲観するか、「限られた手の内の中で
大きな成果を上げてやる!」と奮起するかは、本人の考え方次第である。
確かに日本で承認されているCGMはリアルタイムで血糖値は判らないが、3日間の連続した
血糖値を測定できている事には変わりないので、糖尿病の病態整理に使ったり、介入試験に
用いたりすることで、まだまだ使用の余地は幅広くあると考える。
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