Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.45
スタチン強化療法を受けている低HDL-C患者を対象とした徐放性ナイアシン投与比較試験(AIM-HIGH study)
Niacin in Patients with Low HDL Cholesterol Levels Receiving Intensive Statin Therapy
(N Engl J Med 2011; 365:2255-2267 | December 15, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1107579
【背景】
・LDLコレステロールの目標を達成しても残存心血管リスクは持続する。
・スタチン強化療法にて、LDLコレステロールが目標達成した場合、
HDLコレステロールが低いと残存心血管リスクが上昇する。
【目的】
・シンバスタチン単独療法と比較したシンバスタチン-徐放性ナイアシン併用療法による
残存心血管リスク低減効果について評価を行う
【方法概要】
■デザイン:他施設オープンラベル無作為比較試験
■対象:以下の条件を満たす3,414例
・45歳で、安定した冠動脈疾患、脳血管疾患、頸動脈疾患の患者
・試験開始時のHDL-Cが、男性<40mg/dL、女性<50mg/dLの患者
・試験開始時のTGが150~400mg/dL、LDL-C<180mg/dLの患者
■割付
・全ての患者は、シンバスタチンを40~80mg/日投与し、必要に応じてエゼチミブを
10mg/日追加で投与し、LDL-Cを40~80mg/dLにコントロールした。
◎徐放性ナイアシン投与群(1,718名):
・試験開始時に導入期間(4〜8週)を設け、シンバスタチン40㎎に加え、
徐放性ナイアシンを500mg/日から1週間ごとに増量し、1500〜2000mgの投与にて
有害事象ない患者を割り付けた
◎プラセボ群(1,696名)
■追跡期間:36ヶ月(平均)
※本試験は、心血管イベントが両群同等で有効性を満たしていないこと、
徐放性ナイアシン投与群で脳卒中が多いことから、2011年5月25日に中止された。
■主要評価項目
◎以下を複合したもので評価
・冠動脈疾患による死亡
・非致死的心筋梗塞
・脳梗塞
・急性冠症候群による入院
・症状に応じた冠血行再建または脳血行再建
【結果概要】
・徐放性ナイアシン投与群の2年時点での脂質変化は以下の通りである。
HDL-C: 35md/dl(開始時)→ 42mg/dl(2年後)(プラセボ群と比し、有意に上昇)
TG: 164mg/dl(開始時)→ 122mg/dl(2年後)(プラセボ群と比し、有意に減少)
LDL-C: 74mg/dl(開始時)→ 62mg/dl(2年後)(プラセボ群と比し、有意に減少)
・また、主要エンドポイントは、徐放性ナイアシン投与群で282例(16.4%)、
プラセボ群で274例(16.2%)に発生し、ハザード比は1.02ではあるが、
徐放性ナイアシン投与群で上昇する傾向となった。
・更に虚血性脳卒中の発生率については、プラセボ群の15例(0.9%)に対し、
徐放性ナイアシン投与群で27例(1.6%)であり、有意差はないものの、
ハザード比は1.61で上昇する傾向となった。
【結論要旨】
・動脈硬化性心血管疾患で LDL-C 70mg/dL未満の患者に対して、スタチン療法にナイアシンを
併用することにより、追跡期間 36 ヵ月の間にHDL-CとTGの値は有意に改善されたものの、
臨床的利益の増加は認められなかった。
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【Team DiET の議論】
この論文で思う事は、「スタチンを超える薬は現れないのか・・・」という事である。
これまでにも、スタチンに薬を併用させた比較試験が行われており、注目したいのが、
2008年4月に発表されたENHANCE試験と2009年11月に発表されたARBITER 6-HALTS試験の
結果である。
ENHANCE試験(N Engl J Med2008 April 3;358(14): 1431-43)は、
家族性高コレステロール血症患者に対し「シンバスタチン単独vsシンバスタチン+エゼチミブ」を
投与した比較試験であり、シンバスタチン+エゼチミブ群では、LDL-Cは強力に下げるが、
アテローム性動脈硬化の改善効果については、差は見られないという結果であった。
しかしARBITER 6-HALTS試験(N Engl J Med2009 November 26;361(22): 2113-22)で
強化スタチン治療中の患者に対し、「エゼチミブvsナイアシン」を投与した比較試験の結果が
報告され、ナイアシン群がHDL-Cを有意に上昇させ、アテローム性動脈硬化の改善にも有効な
結果があったと発表した。
これらの結果があり、今回の論文である。
「シンバスタチン単独療法vsシンバスタチン+ナイアシン」を比較したのはまだ判るが、
問題となるのは、主要エンドポイントである。
先の2つの試験では、アテローム性動脈硬化の改善を見るため、CIMT(頚動脈肉膜中膜厚)を
測定していたのだが、今回は心血管イベントの数を見ている。
しかも、心筋梗塞や脳梗塞といったハードエンドポイントだけでなく、入院や症状に応じた
血行再建といったソフトエンドポイントを複合させ、評価するというのである。
あいまいな評価項目が原因とは言わないが、有効性が認められず中止となってしまった残念な
試験であった。
それでも、NEJMに掲載されたのは、ナイアシン併用に警鐘を鳴らしたかったのかもしれない。
そして最大の疑問は、脂質コントロールにおけるスタチンへの依存度合である。
これらの研究は、とりあえずスタチンでLDL-Cを下げるのが第1手で、それでも基準値まで
下がらなかった場合の次の手を薬の併用で考えているに過ぎないのである。
今後はスタチンに依存するのではなく、もっと新しい機序で脂質コントロールにアプローチする
薬を開発していくべきではないかと考える。
とりあえずはCETP阻害薬(アナセトラピブ、ダルセトラピブ)の第Ⅲ相臨床試験の結果を
待ちたいと思う。
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