Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.48
1型糖尿病患者への強化療法によるGFR低下予防効果(DCCT/EDIC試験)
Intensive Diabetes Therapy and Glomerular Filtration Rate
in Type 1 Diabetes
(N Engl J Med 2011; 365:2366-2376 | December 22, 2011)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1111732
【背景】
・GFRの低下は末期腎不全につながるとともに、心血管障害や心血管障害による
死亡リスクを高める。
・1型糖尿病患者では腎障害のリスクが高いことはわかっているものの、
GFR低下を予防するための介入的研究はこれまで行われてこなかった。
【目的】
・DCCT試験(1983〜1993年)およびEDIC試験(1994〜2010年)にて測定された
血清クレアチニン値よりGFRを推定し、強化療法における長期的なGFR低下リスクについて
検討を行う。
≪DCCT試験について≫
◎対象:13〜39歳の1型糖尿病患者1,441例
◎割付
<1次予防群>罹病期間が1〜5年の患者726例(網膜症、腎症なし)
・強化治療群:1日3回以上のインスリン注射またはCSII
・従来治療群:標準的な治療(1日に1または2回のインスリン注射)
<2次予防群>罹病期間が1~15年の患者715例(単純網膜症、微量アルブミン尿あり)
・強化治療群:1日3回以上のインスリン注射またはCSII
・従来治療群:標準的な治療(1日に1または2回のインスリン注射)
≪EDIC試験について≫
◎対象:DCCT試験に参加した1,375例(強化治療群および従来治療群)
◎方法
・DCCT試験後、従来療法群だった患者にも強化療法を開始(全ての患者に強化治療)
・その後の経過を長期間にわたり観察
【方法概要】
■GFR算出方法
・2つの試験期間を通して測定した血清クレアチニン値(年1回測定)を用いて、
慢性腎臓病疫学共同研究の計算式にて推定
■GFR低下の定義
・連続する2回のeGFRが60mL/分/1.73m2体表面積未満であることと定義
■追跡期間
・2つの研究期間を通し、22年間(中央値)
【結果概要】
・追跡期間中(22年間)にGFR低下は、強化療法群24例、従来療法群46例で発生した。
・このうち強化療法群の8例と従来療法群の16例に末期腎不全が発生した。
・従来療法群と比較して、強化療法群はDCCT試験期間中はGFRがより低下していたが、
EDIC試験期間中は、GFR低下速度が遅くなり、試験終了後はGFRの低下が抑えられた。
(従来療法群と比較して、DCCT試験期間中:1.7mL/分/1.73m2の低下
EDIC試験期間中:2.5mL/分/1.73m2の増加)
・全体を通して個別に解析を行い、GFR低下の減少と強く関連していたのは、
HbA1c上昇・アルブミン排泄量増加・血圧上昇・RAA系阻害薬使用・降圧薬使用であった。
・しかし、群別に解析を行うと、強化療法によるGFR低下の予防効果は、HbA1c上昇、
アルブミン排泄量増加について、それぞれで補正すると完全に効果が消失した。
【結論要旨】
・GFR低下の長期的なリスクは、DCCT試験の従来療法群と比較して、早期に強化療法が行われた
1型糖尿病患者において、有意に低い結果が得られた。
・これは「metabolic memory」の存在を想起させる。
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【Team DiET の議論】
今回の論文は22年に亘る長期的な観察であり、DCCT試験も大河ドラマの様相を呈してきた。
本論文の結果から想起させれた「metabolic memory」については、2型糖尿病患者を
対象に行われたUKPDS10年フォローアップで示された「遺産効果」と通じている。
ただ、本論文で評価項目をして用いたeGFRの扱い方については、注意が必要と考える。
eGFRはDCTT試験終了時の従来治療群で高く、EDIC試験終了時には逆転し、強化治療群で
高くなった。
eGFRは糸球体過剰濾過で高値になる。
発症初期のeGFRは、少し低めの値でも、むしろ過剰濾過にはなっていないことを意味していた
かもしれない。
また1型糖尿病における腎症は、微量アルブミン尿の出現により発症すると考えられているため、
微量アルブミン尿を発症していない被験者が多い段階で、eGFRにて腎障害のリスクを
評価することは適切ではない。
このことは、慢性腎臓病(CKD)の病期分類ではeGFRが、糖尿病性腎症の病期分類では
尿中アルブミンが分類の基本となっている点からも推測される。
その他、BMI増加によるGFR低下リスクについては、強化療法を行った群のみで関連がある
という結果であった。
インスリン使用による体重変化の寄与が考えられ、1型といえどもインスリンを過剰に使って
太らせてしまうことの危険性を示唆する。
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