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Team DiET Colloquium vol.51

1型糖尿病患者を対象としたインスリンデグルデクとランタスの有効性比較検討試験≪第Ⅲ相臨床試験≫

Insulin degludec, an ultra-longacting basal insulin, versus
insulin glargine in basal-bolus treatment with mealtime insulin
aspart in type 1 diabetes (BEGIN Basal-Bolus Type 1)
: a phase 3, randomised, open-label, treat-to-target non-inferiority trial
(The Lancet, Volume 379, Issue 9825, Pages 1489 - 1497, 21 April 2012)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60204-9/abstract

【背景】
 ・強化ベーサルボーラスインスリン治療は血糖コントロールを改善し、1型糖尿病に関連した
  長期間での合併症を減少させることが報告されている。
 ・インスリンデグルデクは、新しい超長期作動型基礎インスリンである。


【目的】
 ・1型糖尿病患者を対象にインスリンデグルデクまたはグラルギン(ランタス)を投与し、
  ベーサルボーラス治療における有効性と安全性を検討した。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設無作為オープンラベル割付試験(6カ国、79施設)

 ■対象:以下の条件を満たす1型糖尿病患者:629名
  ・18歳以上の1型糖尿病
  ・少なくとも1年以上ベーサルボーラスインスリン治療を行った患者
   (ボーラスインスリン:インスリンアスパルト(ノボラピッド))
   (ベーサルインスリン(1回/日):インスリングルラギン(ランタス))
   (ベーサルインスリン(2回/日):インスリンデテミル(レベミル)他)
  ・HbA1c:10%以下

 ■割付(デグルデク:ランタス=3:1の割合)
   ◎デグルデク群(472名):注射時刻は夕食時
   ◎ランタス群(157名) :注射時刻は自由

 ■治療について
  ・ボーラスインスリンは両群共、インスリンアスパルト(ノボラピッド)とした。
  ・ベーサルインスリンは両群共、1回/日打ちとし、同量で切替した。
   (試験前のベーサルインスリンが2回/日の場合は、デグルデク群は1日合計量、
    ランタス群は1日合計量の80%の1回/日打ちとした。)
  ・空腹時血糖が72〜90mg/dlとなるようにベーサルの投与量を変更した。
  ・各食前の血糖が72〜90mg/dlとなるようにボーラスの投与量を変更した。

 ■試験期間:1年間

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・デグルデックのランタスに対する非劣性

 ■解析
  ITT解析


【結果概要】
  ・HbA1cの結果は以下の通りとなり、デグルデクはランタスに対して非劣性であった。
     ・デグルデク群:ベースライン時より-0.40%
     ・ランタス群:ベースライン時より-0.39%
  ・HbA1c 7%以下の達成率については、デグルデク群で40%、ランタス群で43%であり、
   両群で同等であった。
  ・デグルデク群では、空腹時血糖が有意に低値でコントロールできた。

  ・また、低血糖(血糖値54mg/dl未満)についても両群で同等だった。
  ・しかし、夜間の低血糖発生率については、デグルデク群でランタス群より有意に低かった。

  ・デグルデク群で基礎インスリン使用量がランタス群と比し、有意に低値であった。
  ・また、ノボラピッドもデグルデク群でランタス群と比して低値であり、全体のインスリン
   使用量では、ランタス群と比し、デグルデク群が有意に低値となった。

  ・体重増加については、両群に差はなかった。
  ・全期間での有害事象発生率は、両群で同等だった。


【結論要旨】
  ・血糖コントロール、有害事象については、デグルデクとランタスで差はなかった。
  ・しかし、インスリンデグルデクは、インスリン治療の大きな限界の一つである夜間の低血糖を
   ランタス群と比し、25%も減少させており、1型糖尿病患者に対して有用な
   基礎インスリンとなる可能性がある。


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【Team DiET の議論】
 昨年のメルマガvol.11では、今回と同じくLancetに掲載された「2型糖尿病患者を対象とした
 デグルデクの有効性比較試験」を読んだが、この時のデグルデクの売りは「半減期24時間以上」
 「作用が最長で96時間持続」であり、『週3回のインスリン注射』や『土日インスリンフリー』と
 いった患者さんの負担軽減をにおわせるものであった。

 試験結果でも、2型糖尿病患者では週3回打ちでも、1回/日打ちでも、血糖コントロールに差は
 見られず、将来的にはベーサルは1回/週になる日も来るのではないかと期待していたのだが、
 今回の試験では、ランタスとの比較試験ということもあり、1回/日となっていたのは、
 残念であった。

 もしかすると、空腹時血糖値や食前血糖値が厳格に規定されている本試験では、
 血糖コントロールに差が出ないことは予想できるため(ボーラス・ベーサルの投与量変更可能)、
 問題視されるのは、有害事象や低血糖発生率になるとの思惑があったからかもしれない
 (2型糖尿病患者にデグルデクを投与した際、低血糖発生率が最も高かったのは週3回打ち)。

 とはいえ、夜間の低血糖がランタス群と比し、25%も減少できたという結果は素晴らしく、
 無意識下での低血糖が回避できるというのは、患者にとって安心材料の1つである。
 割付け直後、デグルデク群で夜間の低血糖が多かった理由として、2回/日打ちの患者に
 1日合計量と同じ量をデグルデクでも投与してしまった事が問題とされており、実際には
 更に低血糖の頻度を抑えられていたのかもしれない。

 デグルデクは作用時間が長いため、1回/日打ちでは作用が被るのではないかと心配したが、
 日差変動の少なさが有効に働いている印象を受けた。

 1型糖尿病患者にとってインスリンは欠かせない薬剤であり、超持効型のインスリンの登場は
 待たれるところである。デグルデクは昨年末に日本でも承認申請を行っており、
 更に今年3月には、ノボラピッドとデグルデクの配合剤も承認申請を行っている。
 今後も患者に治療の負担が軽減できるような治療薬の開発を進めていって欲しいと願っている。


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