Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.54
若年発症の2型糖尿病患者を対象としたメトホルミン併用療法比較試験
A Clinical Trial to Maintain Glycemic Control in Youth with Type 2 Diabetes
(N Engl J Med 2012; 366:2247-2256 | June 14, 2012)
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1109333
【背景】
・若年発症の2型糖尿病患者が増加しているにも関わらず、治療方針を示すデータが
ほとんどないのが現状である。
・細小血管および大血管の合併症は、罹病期間や血糖コントロール状況に大きく依存するため
早期の段階での血糖コントロールが重要である。
【目的】
・小児期及び青年期に発症した2型糖尿病患者に対し、適切な血糖コントロールを達成するため、
3種類の治療方法を比較し、有効性を評価した。
【方法概要】
■デザイン
・多施設無作為比較試験
■対象:以下の条件を満たす10〜17歳の2型糖尿病患者
・米国糖尿病学会の診断基準にて、2型糖尿病と診断されてから2年以内
・BMIが同性同年齢と比較し、85パーセンタイル以上
・各種自己抗体が陰性
・早朝空腹時のCPRが0.6ng/ml以上
・生活指導において家族から援助を受けられる
■割付
全ての患者は試験開始前の2〜6ヶ月をかけて以下を行い、全てを満たした患者(699例)を
対象に1:1:1の以下のごとく割付を行った。
・2~6カ月をかけて開始前の薬物療法からの離脱
・メトホルミン1000mgまでの用量増加
・メトホルミン単剤でHbA1c<8.0%への調整
・糖尿病に対する標準的な知識の教育
・内服治療へのアドヒアランスの向上
◎メトホルミン単剤群(232名):
・メトホルミン1000mg/日を投与
◎メトホルミン+ロシグリタゾン群(233名):
・メトホルミン1000mg/日+ロシグリタゾン4mg/日を投与
◎メトホルミン+生活習慣介入群(234名)
・メトホルミン1000mg/日を投与+開始前から7〜10%の減量を目標とした食事運動指導
■フォローアップ期間:平均3.86年
■評価項目
◎主要転帰項目
・treatment failure
(HbA1cが6カ月以上8.0%を超える、または3カ月以上インスリン治療を必要とする
持続的な代謝異常)
【結果概要】
・試験に参加した699例中319例(45.6%)が平均追跡期間中に主要転帰に達した。
・treatment failureの割合は、以下の通りである。
メトホルミン単独群 :51.7%
メトホルミン+ロシグリタゾン群:38.6%(メトホルミン単独群と比して有意)
メトホルミン+生活習慣介入群 :46.6%(どちらの群とも有意差つかず)
・BMIについては、予想通りメトホルミン+ロシグリタゾン群が最も増加し、
メトホルミン+生活習慣介入群が最も減少した。
・女児では、メトホルミン+ロシグリタゾン群で血糖コントロールの喪失率が低く、
男児では、メトホルミン+生活習慣介入群で血糖コントロールの喪失率が低かった。
・また、非ヒスパニック系の黒人では、メトホルミン単剤による血糖コントロールの喪失率が
高かった。
・心血管イベントに関連する項目(血圧・LDL-C・TG)で、3群間に有意差を認めなかった。
・また、重篤な有害事象は全体の19.2%で報告があったが、3群間で有意差を認めなかった。
【結論要旨】
・メトホルミン単剤療法が十分な血糖コントロールを示したのは半数程度であった。
・メトホルミン単剤および生活習慣介入併用よりもロジグリタゾン併用の方が
より優れた結果であったことは、若年発症2型糖尿病において、
併用療法やインスリン使用が必要とされることを示唆しているかもしれない。
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【Team DiET の議論】
今回の結論が、若年発症の2型糖尿病患者に対し、早期に薬物介入を薦める結論には、
多少の違和感を感じざるをえません。
成人の2型糖尿病の発症予防および遅延を生活習慣介入やメトホルミン単剤の使用で
抑制できるかを比較研究したDPP試験において、生活習慣介入はメトホルミンを投与するより
抑制効果があり、その降下は性別、人種、民族に差はないという結果でした。
(Reduction in the Incidence of Type 2 Diabetes with Lifestyle
Intervention or Metformin
<N Engl J Med 2002; 346:393-403 | February 7, 2002>)
本試験のメトホルミン単剤療法におけるtreatment failure率は、成人を対象に実施された
類似デザインの試験よりも高い結果となっています。本試験では対象が10代であり、
既に2型糖尿病を発症している患者であるため、一概に同じ結果になるとはいえませんが、
ここまで生活習慣介入に治療の成果が見られないことはいささかショッキングです。
今回の結果は、若い人への運動や食事などの生活習慣介入は、成人より難しい事を示唆しますが、
生活習慣介入の達成率について明確にされていないため、容易に結論を導きだすのは危険です。
今回の結果は、性別・人種・民族ごとの治療反応性を鑑みつつ、適切な薬物介入を
早く行うべきというメッセージを伝えている様に感じてしまいますが、その点の葛藤については、
Abstractで示した結論とDiscussionで示した結論で、多少ニュアンスが異なっている事からも
見て取れる様に感じました。
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