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Team DiET Colloquium vol.63

前糖尿病患者を対象とした血糖正常化による糖尿病発症リスクの減少効果
<糖尿病予防プログラムアウトカム試験(DPPOS)のサブ解析>

Effect of regression from prediabetes to normal glucose regulation
on long-term reduction in diabetes risk: results from the Diabetes
Prevention Program Outcomes Study
(The Lancet, Volume 379, Issue 9833, Pages 2243 - 2251, 16 June 2012)

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960525-X/abstract

【背景】
 ・2型糖尿病のリスクの高い人に生活習慣介入を行うことで、新規発症に対して持続的な
  予防効果を持つことは、たくさんの前向き研究で示されている。

 ・前糖尿病状態では、細小血管障害や大血管障害は健常人に比べ進行している。
 ・糖尿病発症および合併症を真の意味で防ぐためには、前糖尿病から血糖を正常化することが
  重要である。

 ・1996年~2001年に前糖尿病患者(境界型)を対象とした予防治療の無作為試験として
  「The Diabetes Prevention Program(DPP)試験」が行われ、
  糖尿病の発症リスクはプラセボ群と比し、ライフスタイル改善群では58%、
  メトホルミン投与群では31%低下したことが報告された。

 ・DPP試験終了後、約1年の移行期間を経て、2002年~2008年に長期観察試験として
  「Diabetes prevention program outcomes study(DPPOS)」が行われた。
 ・DPPOS期間中での糖尿病発症率は、ライフスタイル改善群では5.9例/100人・年で、
  メトホルミン投与群では4.9例/100人・年、DPPプラセボ群では5.6例/100人であり、
  全ての群で同等であった。
 ・しかし、DPP+DPPOS試験の10年間での累積発症率は、プラセボ群と比し、
  ライフスタイル改善群では34%、メトホルミン投与群では18%低下した。
   ※ライフスタイル改善の内容は7%体重減少と維持および週に150分以上の運動とした。


【目的】
 ・DPPOSの結果から、血糖正常化の達成が長期にわたる糖尿病リスクの減少に与える効果を
  検討した。


【方法概要】
 ■デザイン:DPP試験(多施設共同無作為化試験)後に盲験化を解き、結果を開示。
       DPP試験での割付を引き続き継続。

 ■対象:DPP試験(対象は以下)に参加し、長期観察に同意が得られた:2,761名
  ・25歳以上
  ・BMI:24以上
  ・空腹時血糖値が95〜125mg/dL
  ・75g OGTT(経口糖負荷試験)の2時間値が140〜199mg/dL

 ■割付
  ●全ての群は13ヶ月の移行期間を経て、DPPOSに参加した。
   移行期間中に以下を実施した。
    ・全ての群に16のライフスタイルカリキュラムを実施
     (DPP試験でのライフスタイル介入群と同じ内容)
    ・メトホルミン投与群のメトホルミンの投与中止
    ・ライフスタイル介入群の個別のライフスタイル介入プログラムは継続

  ●DPPOSでは、全ての群で3ヶ月に1度ライフスタイル指導を実施
   ◎ライフスタイル介入群(910名)
     上記に加え、年4回、個別のライフスタイル介入プログラムを実施
   ◎メトホルミン投与群(921名)
     メトホルミン1700mg/日を投与
   ◎DPPプラセボ群(931名)

 ■評価項目
  ◎主要評価項目
   ・年1回の75g OGTTと半年に1回の空腹時血糖検査により糖尿病への進展を判定


【結果概要】
  ・DPPOS中の糖尿病への進展リスクは、前糖尿病状態が持続した患者に比べ、
   血糖値が1回以上正常化した患者で56%低下し、DPP試験で割り付けられた治療の影響は
   認めなかった

  ・糖尿病への進展リスクの減少は、血糖正常化の達成回数と強い関連を示しており、
   以下の割合で減少した。
    ・DPP試験中に【1回】血糖正常化した場合の糖尿病への進展リスク:47%減少
    ・DPP試験中に【2回】血糖正常化した場合の糖尿病への進展リスク:61%減少
    ・DPP試験中に【3回】血糖正常化した場合の糖尿病への進展リスク:67%減少

  ・DPP試験で血糖値が正常化しなかった患者のうち、ライフスタイル介入群は、
   DPPOSにおける糖尿病発症リスクが高く、血糖値正常化の可能性が低かった。


【結論要旨】
  ・前糖尿病は糖尿病のハイリスクであり、特にライフスタイル介入を行っても、
   前糖尿病状態が持続している場合、糖尿病発症リスクが高い。
  ・血糖値がたとえ一過性であったとしても正常化できれば、前治療に関わらず将来の
   糖尿病発症リスクが有意に低下する。


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【Team DiET の議論】
 本論文の結果を多くの糖尿病予備軍の方に知ってもらいたいと思います。
 糖尿病は一度発症すると治らない病気なので、糖尿病発症を防ぐためには、
 糖尿病予備軍から血糖の正常化を達成することが重要です。

 現状では、糖尿病予備軍と診断されても、病院にも行かず、生活習慣も改めない方も多く、
 糖尿病患者は増え続けるばかりです。
 糖尿病予備軍は何もしなければ、毎年10%が糖尿病に進展します。
 しかし、糖尿病予備軍の方が、速やかに治療を行い、一度でも血糖を正常に戻すことで
 糖尿病進展リスクが半分以上も減少するという結果は、一条の光となるのではないでしょうか。

 本試験での血糖正常の定義は、
  ・空腹時血糖値が100mg/dL以下
  ・75g OGTT(経口糖負荷試験)の2時間値が140mg/dL以下
 であるため、一過性でも糖尿病発症リスクを低減させるとはいえ、血糖を正常に戻すためには
 継続したライフスタイル改善が必要です。それにも関わらず血糖正常化を達成できない場合は
 薬物療法の併用を行うことで糖尿病発症リスクを減少できる可能性があります。

 そのためにも、継続できる生活指導が重要となってきます。
 DPP試験においても、DPPOSにおいても、ライフスタイル介入は、「体重を7%減らしましょう」
 「週に150分の運動をしましょう」といった漠然とした指針だけではなく、食事や運動の
 カリキュラムが組まれ、個別やグループでの指導も行われました。
 これらのサポートがあったからこそ、継続的にライフスタイル改善が行えたのだと思います。

 現在、糖尿病予備軍に対し、詳細な生活指導が行われていませんが、今後増大する
 糖尿病患者を少しでも減らすために、国や病院、市町村が一体となって、糖尿病予備軍に対し、
 まずライフスタイル改善のサポートを行うべきであると考えます。


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