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Team DiET Colloquium vol.64
低リスクの甲状腺癌患者に対する放射性ヨードによる残存甲状腺破壊の有効性
Strategies of Radioiodine Ablation in Patients with Low-Risk Thyroid Cancer
(N Engl J Med 2012; 366:1663-1673 | May 3, 2012)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1108586 [ch0]
【背景】
・低リスクの甲状腺癌で甲状腺全摘術を受けた患者が、放射性ヨード投与により
利益が得られるかどうかは明らかになっていない。
・可能な限り最小量の放射性ヨードを投与することによって、ケアが改善される可能性がある。
【目的】
・低リスクの甲状腺癌患者に対するフォローアップ方法について検討を行う。
【方法概要】
■デザイン:無作為化第3相試験
■対象:以下の条件を満たす低リスクの甲状腺癌患者:752名
・18歳以上
・甲状腺分化癌に対する甲状腺全摘
・摘出標本の病理学的検査による腫瘍-リンパ節-転移(pTNM)分類において
以下のいずれかに属する
・pT1(腫瘍径≦1cm)で N1もしくはNx
・pT1(腫瘍径>1~2cm)で N分類を問わない
・pT2N0M0(リンパ節転移、遠隔転移なし)
■割付(2種類の甲状腺刺激法と2種類の放射性ヨウ素線量での2×2デザイン)
◎遺伝子組換えヒトTSH(甲状腺刺激ホルモン)投与群
・放射線ヨード:低線量群(1.1GBq)(187名)
・放射線ヨード:高線量群(3.7GBq)(187名)
◎甲状腺ホルモン中止群
・放射線ヨード:低線量群(1.1GBq)(189名)
・放射線ヨード:高線量群(3.7GBq)(189名)
■評価項目
◎主要評価項目
・放射性ヨードを投与して8ヵ月後、頸部超音波検査と刺激サイログロブリン(Tg)測定を
行い、残存甲状腺破壊を評価した。
【結果概要】
・登録された被験者のうち、92%が乳頭癌であった。
・評価可能なデータが得られたのは752例中684例(91%)であった。
・頸部超音波検査が正常となった割合は、以下の通りであり、全体で652例(95%)であった。
・遺伝子組換えヒトTSH投与-低線量群:171例(97%)
・遺伝子組換えヒトTSH投与-高線量群:161例(94%)
・甲状腺ホルモン中止 -低線量群:163例(96%)
・甲状腺ホルモン中止 -高線量群:157例(95%)
・また頸部超音波検査が正常で、刺激サイログロブリン(Tg)値が1.0 ng/mL以下となった
割合は以下の通りであり、全体で652例中621例(95%)であった。
・遺伝子組換えヒトTSH投与-低線量群:157例(94%)
・遺伝子組換えヒトTSH投与-高線量群:160例(96%)
・甲状腺ホルモン中止 -低線量群:152例(95%)
・甲状腺ホルモン中止 -高線量群:152例(96%)
・また、評価可能な症例の中で、残存甲状腺破壊が得られた割合は以下の通りであり、
全体で684例中631例(92%)であった。
・遺伝子組換えヒトTSH投与-低線量群:160例(90%)
・遺伝子組換えヒトTSH投与-高線量群:159例(93%)
・甲状腺ホルモン中止 -低線量群:156例(92%)
・甲状腺ホルモン中止 -高線量群:156例(94%)
・残存甲状腺破壊率は、2種類の甲状腺刺激法と2種類の放射性ヨウ素線量間で、
同等であった。
・有害事象については、群間に有意差を認めず、予期せぬ重篤な有害事象はなかった。
・甲状腺機能低下症の症状が現れた割合は、甲状腺ホルモン中止群において、著しく多かった。
・涙腺異常の割合は以下の通りであり、甲状腺ホルモン中止群において、著しく多かった。
・遺伝子組換えヒトTSH投与-低線量群:18例(10%)
・遺伝子組換えヒトTSH投与-高線量群:19例(10%)
・甲状腺ホルモン中止 -低線量群:35例(20%)
・甲状腺ホルモン中止 -高線量群:43例(24%)
・QOLについては、遺伝子組換えヒトTSH投与群と比し、甲状腺ホルモン中止群は悪化した。
【結論要旨】
・低リスクの甲状腺癌の管理は、遺伝子組換えヒトTSH投与と術後の低線量(1.1GBq)の
放射性ヨードによる残存甲状腺破壊で充分である可能性がある。
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【Team DiET の議論】
本試験の観察期間は8ヶ月であり、本データのみで低線量の放射性ヨード投与で
残存甲状腺破壊が充分に行えると言ってしまうには、問題があるのではないかと思います。
現段階では、再発については言及しておらず、最初の直接効果を見ているにすぎないと
考えます。
放射性ヨードの線量の治療効果については、
「高線量では、二次癌などの長期的な合併症を発症する」
「低線量では、癌細胞を消滅できず、未分化癌になる可能性がある」
との様々な意見があります。
しかし、日本での甲状腺癌における放射性ヨード内用療法に関するガイドラインでは、
投与量は患者の体格・年齢・性別・病状などにより個々に決定するとしており、
一般的な投与量は3700〜7400MBqとなっています。
これは、本論文中で低線量としている1.1GBqより低い値であることに注意が必要です。
また、日本と海外では甲状腺癌の治療に対する方針が異なっています。
海外では、甲状腺癌の大きさや種類に関わらず、全摘術を行い、放射性ヨード治療を行いますが、
日本では、甲状腺を温存できる手段を模索し、治療を行います。
放射性ヨード治療は、甲状腺全摘術が必須となるため、海外に比べ、日本ではあまり定着して
いませんが、今後は、放射性ヨードの投与量や補助療法について、更に考えていく必要が
あるのかもしれません。
今回の論文での低線量は日本での基準からいえば、低線量にはなりませんが、放射性ヨードの
投与量が低線量でも効果があるというのは、治療を受ける患者にとって、朗報であることは
間違いありません。
今後も追跡をすすめ、放射性ヨード線量の違いによる未分化癌の再発について、調査が行われる
ことを期待したいと思います。
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