Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.66
小児の生活習慣が及ぼす成人期のメタボリックシンドローム発症への影響
Childhood nutrition in predicting metabolic syndrome in adults
: the cardiovascular risk in young Finns study
(Diabetes Care, Volume 35(9), Pages 1937 - 1943, September 2012)
http://care.diabetesjournals.org/content/early/2012/07/11/dc12-0019.full.pdf [ch0]
【背景】
・成人において、野菜や果実に富む食生活は、メタボリックシンドローム(MetS)を予防する。
・野菜中心の食生活は、MetSの危険因子(ex. 肥満、高血圧症、脂質異常症、耐糖能異常)に
効果的で、MetSの発症のリスクを引き下げることも示されている。
・MetSは、成人期における食事や身体活動といった生活様式から影響を受けているのは
明らかだが、幼少時代の栄養状況から将来的なMetSの発症を予測できるかを研究した
大規模研究はない。
【目的】
・幼少時代の生活習慣(野菜・果物・魚・肉・パンにのせるバターの摂取、身体活動)と
成人期のMetS発症との関連性を研究する。
【方法概要】
■デザイン:前向き追跡研究
■対象:以下を満たすフィンランド戸籍の子供および青年(4,320名)
・1980年当時に3、6、9、12、15、18歳の男女
■追跡調査:1980年に最初の横断研究を実施。
・1983年、1986年、2007年に追跡調査を実施。
■評価方法
・1980・1983・1986年に測定された危険予知因子変数(risk variables)の平均を
算出した。
・幼少時代の危険予知因子変数と成人期のMetSとの関連性は、年齢・性別を調整した
回帰分析で評価した。
・MetSの構成要素と、MetSと関係する生活習慣との関連性は、年齢・性別を調整した
回帰分析で評価した。
◎危険予知因子変数の項目は、「BMI・腹囲・血圧・脂質・血糖・インスリン値・高感度CRP値
・食習慣・身体活動・家族歴・両親の学歴・喫煙歴・飲酒歴」である。
◎食習慣についてはアンケートを行い、野菜・果物・肉・魚を含めた15品目の食材の
摂取頻度を調査した。
◎身体活動についてもアンケートを行い、身体活動の頻度・強度・身体活動指数について
調査した。
【結果概要】
・成人期にMetSを発症した群(MetS群)は、 MetSを発症しなかった群(非MetS群)と
比し、以下の通りであった。
・幼少時代のHDL-chol値が低い
・女性より男性の方が多い
・年齢・TG値・収縮期血圧・高感度CRP値・インスリン値・BMIが高い
・幼少期の果物および野菜の摂取頻度が少なく以下の通りであった。
<果物>MetS群 :6.4±3.0回/週
非MetS群:7.0±2.8回/週
<野菜>MetS群 :5.8±2.9回/週
非MetS群:6.3±2.9回/週
・なお、身体活動、魚・肉の摂取、パンへのバター使用に関して、有意差はなかった。
・生活習慣においては、幼少時代の野菜・果物の摂取頻度のみ、MetS発症と負の相関を示し、
それ以外の身体活動、魚・肉の摂取、パンへのバターの使用に関しては有意差はなかった。
・追加研究として、幼少時代の総カロリー摂取量とMetS発症について調査を行ったが、
有意な相関はみられなかった。
・多変量解析においても、幼少時代に野菜を摂取した頻度は、MetS発症と負の相関を示した。
・しかし、果物の摂取頻度とMetS発症との負の相関はなくなった。
・幼少時代の他の予測因子に関しては、以下の通りとなった。
・MetS発症と正の相関:性別、BMI、TG値、insulin値、家族歴(高血圧症、糖尿病)
・MetS発症と負の相関:年齢、HDL-chol値
・MetSの構成要素と、MetSと関係する生活習慣との関連性については、以下の通りであった。
・幼少時代の野菜の摂取量が多いほど、高血圧症を発症するリスクが小さい。
・幼少時代の野菜の摂取量が多いほど、高TG血症を発症するリスクが小さい。
・上記の相関性は、成人での野菜の摂取を加味した統計学的補正を行っても、有意差があった。
【結論要旨】
・幼少時代における、野菜を摂取する頻度は、MetS発症と負の相関を示す。
・幼少時代における野菜の摂取量が多いほど、成人期のMetS発症を予防する効果が
あるかもしれない。
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【Team DiET の議論】
本論文では、幼少期の野菜摂取がメタボリックシンドローム発症予防に役立つ可能性を
示唆しており、食育を推進する方々にとっても、メタボリックシンドローム予防に取り組む方々に
とっても、非常に頼もしいレジストリ研究であったと思います。
しかし、本研究での野菜の定義が明らかになっていない点に疑問が残ります。
ひと言で野菜といっても、ミネラルを多く含む葉物野菜や糖質を多く含む芋類、タンパク質を
多く含む豆類など様々な種類があります。
また、日本の行政上の分類では、茎やつるなどの草本性植物を「野菜」、樹木になるものを
「果物」と定義していますが、国々によっても様々な分類があり、とても不明瞭です。
本試験はフィンランドで実施されており、フィンランドでの野菜の定義は判りませんが、
「野菜」という定義が明らかにされていないと、個々の被験者で差が出てしまい、結果の
信頼性が問われかねないと思います。
また食習慣については、各食材の摂取頻度と追加研究で行われた総カロリー摂取量のみであり、
総脂質摂取量や総タンパク質摂取量、総糖質摂取量については明らかにされておらず、
栄養素のバランスについては言及していません。
更には、野菜摂取回数の増加によるメタボリックシンドローム発症抑制のメカニズムについても
明らかにされておらず、今後の解明が待たれます。
しかし、高血圧症や高TG症を予防のためには、幼少期から野菜を食べることが不可欠であり、
成人になってから野菜を摂取しはじめても手遅れとであるということが、本研究で
実証されました。
今後、野菜の定義は明らかにする必要があると思いますが、本論文の結果を子ども達の食育や
メタボリックシンドローム予防に役立てていければと考えます。
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