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Team DiET Colloquium vol.70

重症患者における低血糖と死亡リスク<NICE-SUGAR研究の事後解析>

Hypoglycemia and Risk of Death in Critically Ill Patients
(N Engl J Med 2012; 367:1108-1118 | September 20, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1204942

【背景】
 ・重症患者において低血糖が死亡に結びつくかどうかは明らかにされていない。

 ・NICE-SUGAR研究は、ICUに入室した内科・外科系成人患者を強化管理群(81~108mg/dl)と
  通常管理群(≦180mg/dl)の2群に割け、強化血糖管理によって90日以内の死亡率が低下する
  という仮説を検証した無作為化並行群間比較対照試験である。
 ・90日以内の死亡率は以下の通りであり、強化管理群は通常管理群と比し、死亡率を有意に
  上昇させた(P=0.03)。
      強化管理群:27.5%(829/3,010例)
      通常管理群:24.9%(751/3,012例)
 ・重症低血糖(≦40mg/dl)の発生率は以下の通りであり、強化管理群は通常管理群と比し、
  重症低血糖発生率を有意に上昇させた(P<0.001)。
      強化管理群:6.8%
      通常管理群:0.5%
 ・ICU入室期間・入院期間・人工呼吸を要した期間・透析を要した期間のいずれも、両群で
  有意差はなかった。
 ・結論として、ICUの重症患者では、より厳密な血糖管理よりも、180mg/dl以下を目標にした
  血糖管理が望ましいとされた。


【目的】
 ・NICE-SUGAR研究の結果を解析し、ICUの重症患者のうち、中等度低血糖(41〜70mg/dl)と
  重症低血糖(≦40mg/dl)での死亡の関連を比較検討した。


【方法概要】<NICE-SUGAR研究:2004〜2008年>
 ■デザイン:多施設共同無作為化並行群間比較対照試験(ICU入室理由と地域によって層別化)
       (42施設、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ)

 ■対象:ICUに3日以上入院すると予測された患者6,104例

 ■割付(1:1の割合):ICU入室後24時間以内に2群に分類
   生食で希釈したインスリンの持続静注によって血糖を管理。
   血糖測定のための血液検体は、可能な限り動脈圧ラインから採取(毛細血管は禁止)。
   血糖測定は原則1時間毎(目標内で落ち着いていたら最大4時間毎で可)。
    ◎強化管理群(3,013名)
      81~108mg/dlを目標に血糖管理
    ◎通常管理群(3,013名)
      180mg/dl以下を目標に血糖管理
      (血糖値>180mg/dlでインスリン投与開始、血糖値<144mg/dlでインスリン減量。)

 ■主要評価項目
  ・90日以内の死亡


【結果概要】
  ・追跡調査データが得られた6,026例のうち、低血糖を呈したのは以下の通りである。
      中等度低血糖(41〜70mg/dl):2,714例
      重症低血糖 (≦40mg/dl)  : 223例

  ・低血糖リスクを最も上昇させたのは、血糖コントロールであり、強化血糖管理は
   通常血糖管理と比し、格段に低血糖リスクを上昇させた。
      中等度低血糖のうち強化管理群の割合:82.4%(2,237例)(ハザード比:24.19)
      重症低血糖 のうち強化管理群の割合:93.3%( 208例)(ハザード比:16.39)

  ・低血糖と死亡率については以下の通りであり、低血糖なし群と比し、中等度および
   重症低血糖群の死亡リスクは有意に上昇した。
   重症低血糖群においては、死亡リスクが約2倍に上昇した。
      低血糖なし群 :23.5%(726/3.089例)
      中等度低血糖群:28.5%(774/2,714例)(ハザード比:1.41)
      重症低血糖群 :35.4%( 79/ 223例)(ハザード比:2.10)

  ・90日以内の死亡率では、強化管理群は通常管理群と比し、死亡率を有意に上昇させたが、
   中等度または重症低血糖の有無と両群間で死亡リスクに有意差は見られなかった。

  ・中等度または重症低血糖の有無と死亡との関連が強く認められたのは、中等度の低血糖が
   1日以上続いた患者・インスリン治療を受けなかったにも関わらず低血糖を呈した患者・
   血液分布異常性(血管拡張性)ショックにより死亡した患者であった。

【結論要旨】
 ・重症患者において、中等度および重症低血糖はいずれも死亡リスクの上昇に関与している。
 ・重症患者に強化血糖コントロールを行うことにより、中等症・重症低血糖が発生する。
 ・この関連性は量依存的であり、低血糖においては、血液分布異常性ショックによる死亡との
  関連が最も強い。
 ・しかし、これらのデータから因果関係を証明することはできない。

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【Team DiET の議論】
 今回の論文は、様々な議論がされ未だに着地点が見えてこないICUでの血糖管理に、
 新たなエビデンスを加えました。

 ICUでの血糖管理については、2001年に発表されたLeuven Ⅰ study(外科系)により、
 強化血糖コントロールが死亡リスクを低下させるとして、話題となりました。
 しかし、Leuven Ⅰ studyは1施設による非盲検化試験であったため、データの信頼性に
 乏しいとされ、その後、様々な国や施設で臨床研究が行われました。

 その中でも、VISEP trialやGlucontrol trial、NICE-SUGAR studyの大規模他施設研究は
 ICU患者に対する血糖管理を考える上で重要とされています。
 特にNICE-SUGAR研究の結果は、「強化血糖コントロールが死亡率を上昇させる」といった
 これまでの仮説を覆すものであったため、注目を集めました。

 そして今回、NICE-SUGAR研究の死亡リスクの詳細が報告され、低血糖も予後不良因子である
 ことが明らかとなりました。
 これまで高血糖を予後不良因子の1つであるとして血糖管理をしてきましたが、今回の結果より、
 低血糖を起こさないような血糖管理がより重要であることが示されました。
 今後は予後を最も改善する至適血糖管理域の確立が急がれるところです。

 また、2011年に米国内科学会で発表されたICU患者への血糖管理のガイドラインでは、
 「血糖を正常値にするための強化インスリン療法を試みる必要はない」としており、
 血糖管理は140〜200mg/dlに維持することが望ましいとしています。

 しかし、上限を200mg/dlにするのは高すぎるという意見もあり、今後の研究の結果によっては
 血糖管理値が変更される可能性もあります。
 また、高血糖・低血糖だけでなく、血糖変動についても、死亡リスクと関連があることが
 報告されており、ICU患者に対する血糖管理は、今後も注目していかなくてはいけない
 話題の1つです。


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