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Team DiET Colloquium vol.74

砂糖入り清涼飲料水の飲用と肥満の遺伝的リスク

Sugar-Sweetened Beverages and Genetic Risk of Obesity
(N Engl J Med 2012; 367:1387-1396 | October 11, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1203039 [ch0]

【背景】
 ・砂糖入り飲料の消費の経時的な増加に並行して、肥満の有病率が上昇している。
 ・しかし、砂糖入り飲料の摂取が肥満の遺伝的素因と交互作用するかどうかは
  明らかにされていない。

【目的】
 ・肥満の素因がある人が砂糖入り清涼飲料を多飲することで、肥満しやすくなるかを検討した。


【方法概要】
 ■デザイン:後ろ向きコホート研究

 ■対象:
   以下のコホート調査において、登録時基礎疾患がなく、非肥満(BMI<30)で、
   遺伝子情報が利用可能な33,097例(ヨーロッパ系)
     ・看護師健康調査(NHS)<女性対象:6,934例>(年齢:30~55歳)
     ・医療従事者追跡調査(HPFS)<男性対象:4,423例>(年齢:40~75歳)
     ・ゲノム健康調査(WGHS)<女性対象:21,740例>(年齢 45歳以上)

 ■分類:砂糖入り清涼飲料水の飲用量により、4群に分類した。
   砂糖入り清涼飲料水は、砂糖入りソフトドリンク、果実飲料、レモネードが含まれるが、
   100%フルーツジュース、アイスコーヒーやアイスティーは含まれていない。
      ◎月1杯未満群(2,843例)
      ◎月1〜4杯群(1,776例)
      ◎週2〜6杯群(1,496例)
      ◎日1杯以上群(819例)

 ■観察期間:最初のアンケートより12年間

 ■主要評価項目
   遺伝的素因と砂糖入り甘味飲料の摂取の相互作用が、BMIと肥満リスクに果たす役割を解析。
   (BMIに関連する32個の遺伝子座に基づいて、遺伝的素因スコア(GPS)を算出)


【結果概要】
  ・NHSコホートおよびHPFSコホートを合わせた「砂糖入り清涼飲料水」と
   遺伝的素因スコア10点上昇あたりのBMIスコアは以下の通りであり、BMIとの遺伝的関連は、
   砂糖入り清涼飲料水の摂取量が多い方が、摂取量が少ない方よりも強かった。
      月1杯未満群:1.00
      月1〜4杯群:1.12
      週2〜6杯群:1.38
      日1杯以上群:1.78

  ・また、WGHSコホートにおける「砂糖入り清涼飲料水」と遺伝的素因スコア10点上昇あたりの
   BMIスコアは以下の通りであり、BMIとの遺伝的関連は、NHSコホートおよびHPFSコホートと
   同様に砂糖入り清涼飲料水の摂取量が多い方が、摂取量が少ない方よりも強かった。
      月1杯未満群:1.39
      月1〜4杯群:1.64
      週2〜6杯群:1.90
      日1杯以上群:2.53

  ・NHSコホートおよびHPFSコホートを合わせた「人工甘味料入り清涼飲料水」と
   遺伝的素因スコア10点上昇あたりのBMIスコアは以下の通りであり、BMIとの遺伝的関連は
   みられなかった。
      月1杯未満群:1.19
      月1〜4杯群:1.03
      週2〜6杯群:0.92
      日1杯以上群:1.16

  ・また、WGHSコホートにおける「人工甘味料入り清涼飲料水」と遺伝的素因スコア10点上昇
   あたりのBMIスコアは以下の通りであり、NHSコホートおよびHPFSコホートと同様に
   BMIとの遺伝的関連はみられなかった。
      月1杯未満群:1.60
      月1〜4杯群:1.43
      週2〜6杯群:1.46
      日1杯以上群:1.63


【結論要旨】
 ・この研究から、1日1杯以上の清涼飲料水を引用すると、BMI上昇や肥満のリスクに対する
  遺伝的影響が約2倍になることが示された。
 ・清涼飲料多飲者は肥満症の遺伝的影響を受けやすく、肥満の遺伝的リスクが高い人は、
  清涼飲料多飲による悪影響を受けやすいことが示唆された。


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【Team DiET の議論】
 こういった解析研究の場合、得られた結果をどう社会に還元するかが問題となります。
 本論文では、32個のBMI関連の遺伝子座を基に遺伝的スコアを計算していますが、
 現実問題、64のスニップを調べるとなれば、膨大な予算が必要となります。

 湯水のように予算を使い、肥満を抑制するために全国民の遺伝的スコアを計算し、
 肥満の遺伝的リスクが高い人に対し、砂糖入り清涼飲料水を飲まないように指導するのは
 現実的ではありません。
 最も簡単な方法は、全員で砂糖入り清涼飲料水を辞めることですが、それはあまりにも
 過激すぎます。
 本論文の結果を有用に使っていくためには、もっと簡単にBMI関連の遺伝子座を識別できる
 方法が必要であり、疫学研究として実用化するには、現段階では難しいと思います。


 本論文で非常に興味深い結果となっていたのが、人工甘味料とBMIの増加についてです。
 年齢、身体活動、喫煙、アルコール、摂取エネルギーで調整をしても、人工甘味料の摂取は
 BMIの増加と関連がないという結果であり、予想外といえました。
 マウスの実験では、人工甘味料を摂取しすぎると肥満になりやすいと報告されており、
 今回の結果とは異なります。
 理由としては、マウスの実験では小さい時に人工甘味料を与えており、それによって
 食欲中枢が異常を起こすことが考えられます。

 メタボリッククラブでは3週にわたり、清涼飲料水と肥満の関係を示す論文を読む予定です。
 次週は「小児に甘味飲料と人工甘味料飲料を与えた際の体重および脂肪の増加」であり、
 結果が非常に楽しみです。
 読者の皆さんも心待ちにしてもらえればと思います。


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