Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.75
小児における無糖飲料または加糖飲料摂取による体重増加および脂肪蓄積についての検討
A Trial of Sugar-free or Sugar-Sweetened Beverages and Body Weight
in Children
(N Engl J Med 2012; 367:1397-1406 | October 11, 2012)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1203034 [ch0]
【背景】
・砂糖入り飲料の消費量は過体重と関連しており、おそらく液糖では満腹感が得られず、
他の食物の摂取量が減らないことが理由として考えられる。
・砂糖入り飲料は体重増加と関連があるとの報告がされているが、小規模である、
プラセボが対象でない、ランダマイズ化がなされていないなど不十分な内容である。
・砂糖入り飲料をゼロカロリー飲料に置き換えることで、体重増加が抑制されることを示す
データはない。
【目的】
・ダブルブラインドかつランダマイズ化された試験にて、砂糖入り飲料をゼロカロリー飲料に
置き換えることで、体重増加が抑制されるかどうかを検討した。
【方法概要】
■デザイン:多施設2重盲検ランダム化比較試験(アムステルダム近郊の8つの学校)
■対象:以下の条件を満たす小児:641例
・加糖飲料を5日中3日以上摂取
・4歳10ヵ月~11歳11ヵ月
・主に標準体重
■割付(1:1の割合)
飲料は学校で配布され、1日割りつけられた1缶を学校で飲用
摂取状態は、空き缶を自分の名前入りの箱に入れさせることで管理
◎無糖群(319例)
1日250mLの人工甘味料入り飲料を摂取(ゼロカロリー)
人工甘味料は、34mgのスクロースと12mgのアセスルファム
◎加糖群(322例)
味・外観が類似した104kcalの砂糖入り飲料を摂取
■観察期間:18ヵ月間
■主要評価項目
BMIのzスコア
■副次的評価項目
ウェスト/身長比、皮下脂肪厚、脂肪量(インピーダンス法)、体重、身長、
身長のzスコア、腹囲、身長で補正した体重
【結果概要】
・18ヶ月間のBMIのzスコア(平均BMIから標準偏差いくつぶん離れているか)の変化量は、
以下の通りであり、脱落の有無に関わらず、無糖群と比し、加糖群で有意に大きかった。
無糖群(脱落含む):0.02 SD
加糖群(脱落含む):0.15 SD
無糖群(脱落除く):0.02 SD
加糖群(脱落除く):0.15 SD
・18ヶ月間の体重変化量は、以下の通りであり、脱落の有無に関わらず、無糖群と比し、
加糖群で有意に大きかった。
無糖群(脱落含む):6.35kg
加糖群(脱落含む):7.37kg
無糖群(脱落除く):6.33kg
加糖群(脱落除く):7.30kg
・ウエスト/身長比、皮下脂肪厚,脂肪量の増加についても、無糖群と比し、加糖群で有意に
大きかった。
・18ヵ月の時点で、小児の26%が飲料の摂取を止めており、無糖群で多かった。
脱落の理由の69%が「味が嫌い」であった。有害事象は少数であった。
無糖群:94例(29.7%)
加糖群:70例(21.7%)
【結論要旨】
・標準体重の小児において、砂糖入り飲料をゼロカロリー飲料に置き換えることで、
体重増加と脂肪蓄積が減少した。
・本試験の対象が健康なオランダ人で、正常体重の小児であるため、肥満児や他の人種、
成人への有効性は不明である。
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【Team DiET の議論】
先週のメールマガジンで紹介した「Sugar-Sweetened Beverages and Genetic Risk
of Obesity(砂糖入り清涼飲料水の飲用と肥満の遺伝的リスク)」の論文では、
肥満の遺伝的リスクが高い人において、BMI増加は加糖飲料摂取と関連があるものの、
人工甘味料の摂取とは関連がないという結果でした。
今回は肥満の遺伝的リスクは調べていないものの、加糖飲料を人工甘味料飲料に
置き換えることで、BMIの増加抑制につながったという結果になりました。
これら2つの論文は、人工甘味料摂取による体重増加の抑制効果を示しています。
しかし、人工甘味料の摂取が与える影響については、メリットだけではなく、デメリットも
報告されています。
2009年4月Diabetes Careにて発表された大規模疫学調査「Diet Soda Intake and Risk
of Incident Metabolic Syndrome and Type 2 Diabetes in the Multi-Ethnic
Study of Atherosclerosis(MESA)」では、ダイエットソーダを毎日飲んでいる人は、
飲んでいない人に比べて、メタボリック症候群や2型糖尿病を発症する可能性が高いと
報告しました。
この論文を発表したJennifer A. Nettleton博士は、この結果に関して、
人間の行動パターンが最も大きな原因と考えており、「人工甘味料はゼロカロリーだから、
どれだけでも食べてよい」「人工甘味料は砂糖の数百倍も甘みがあるため、甘みへの欲求が
強くなる」などの心理的問題があるとしています。
現在、糖尿病の食事療法の1つとして、糖質コントロール食が話題となっていることもあり、
糖アルコールや人工甘味料が、血糖を上げない甘味料として注目を浴びています。
甘いものがNGとされてきた糖尿病患者にとって、甘いものを食べられる幸せができたことは
非常に価値があると思います。
しかし、糖アルコールにしても、人工甘味料にしても、過剰摂取や継続摂取による悪影響が
ないとは言い切れません。
糖質オフであれば、いくらでも飲み食いしてもよい訳でなく、「糖質→糖質オフ」に置き換える
ことが原則です。
晩酌で飲んでいたビールを糖質オフビールに置き換えるのは○ですが、食事中のお茶を
糖質オフ飲料に置き換えるのは×です。
あくまでも糖質オフは補助的なものであり、野放し的に甘いものを食べても良いことでは
ありません。
肥満は世界的な問題となっており、今後も人工甘味料や糖アルコールが肥満に及ぼす影響に
ついて、様々な研究が行われています。
人工甘味料が肥満を助長するのかしないのか、また、今後の決着が楽しみですが、仮に肥満を
抑止できるという結果となっても、過剰に反応せず、摂り過ぎには注意するように促していく
必要があります。
次号では「A Randomized Trial of Sugar-Sweetened Beverages and Adolescent
Body Weight(1年間のノンカロリー飲料摂取がその後のBMIに及ぼす影響)」について
紹介したいと思います。
2012年10月N Engl J Med誌で発表された人工甘味料3部作のラストです。お楽しみに。
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