Team DiET メールマガジンバックナンバー

Team DiET Colloquium vol.77

癌患者におけるスタチンの使用と癌関連死亡率

Statin Use and Reduced Cancer-Related Mortality
(N Engl J Med 2012; 367:1792-1802 | November 8, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1201735 [ch0]

【背景】
 ・コレステロールは哺乳類の細胞膜の構成物質である。
 ・癌の増殖や転移においては、細胞増殖が必要である。
 ・スタチンは内因性のコレステロール生合成を阻害し、細胞増殖を抑制する。


【目的】
 ・癌患者のスタチン使用と癌関連死亡率低下との関連について検討する。

【方法概要】
 ■デザイン:レジストリ研究(Danish Civil Registration Systemを利用)

 ■対象:1995~2007年に癌と診断された40歳以上のデンマーク人295,925例

 ■割付:
   ◎スタチン使用群(18,721例)
     癌と診断される前からスタチンを定期的に使用
   ◎スタチン未使用群(277,204例)
     スタチンの使用歴なし

 ■観察期間:15年間
(平均2.9年)

【結果概要】   ・スタチン使用群の未使用群に対する多変量補正ハザード比は、以下の通りであり、
   スタチンを使用している群の方が、死亡率は低かった。
      《全死亡》0.85、《癌死亡》 0.85

  ・スタチン用量別での補正ハザード比は、以下の通りであり、死亡率は用量に依存して
   いかなった。
      《全死亡》
        1日量が規定量の0.01~0.75倍:0.82
        1日量が規定量の0.76~1.50倍:0.87
        1日量が規定量の  >1.50倍:0.87
      《癌死亡》
        1日量が規定量の0.01~0.75倍:0.83
        1日量が規定量の0.76~1.50倍:0.87
        1日量が規定量の  >1.50倍:0.87

  ・13種類の癌別にみても、スタチン使用群の癌関連死亡率は、スタチン未使用群と
   比較して低下していた。

【結論要旨】  ・癌患者におけるスタチン使用は、癌関連死亡率の低下と関連している。  ・今後、癌患者を対象にしたスタチン使用の有効性について検討する研究が望まれる。


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【Team DiET の議論】
 今回の結果で注意したい点は、癌患者にスタチンを服用させても、癌関連死亡率が
 低下するとは限らないということです。
 確かに結果では、スタチンを服用していた癌患者は、服用していなかった癌患者と比べ、
 生存率は高かったのですが、これはあくまで結果論です。レジストリー研究の限界とも言えますが、一方、この仮説を割付介入研究で証明するには必要な規模と時間が膨大になるのも事実です。
 
 本試験では、癌を発症したらスタチンの服用をはじめるのではなく、癌と診断された時に
 スタチンを服用していたか否かで群分けされています。
 そのため、本試験の結果から言えることは、「癌の診断前にスタチンを服用していたら、
 ラッキー!早めに飲んでて良かったね!」ということです。
 今後行われるであろう、癌患者を対象としたスタチン投与試験の結果を待ちたいと思います。

 本研究で興味深いデータとして、癌患者の生存率はスタチンの用量に依存していない点が挙げられます。
 少量でもスタチンを服用していれば死亡率は低下しており、大切なのは用量ではなく、
 癌発症前に服用しているかどうかです。

 以前のメルマガで紹介した「Effects on 11-year mortality and morbidity of lowering
 LDL cholesterol with simvastatin for about 5 years in 20,536 high-risk individuals
 : a randomised controlled trial」では、シンバスタチンは心血管イベントの抑制効果が
 あるが、遺産効果がないことが明らかとなり、スタチンの早期開始と継続的投与が
 示唆されました。
 本結果においても、同様のことが示唆されており、改めてスタチンの早期投与の有効性を
 支持した結果になったと思います。

 また、本試験のような大規模なレジストリー研究は、医療登録制度が整ったデンマークだからこそ
 行える研究です。
 デンマークでは、生まれた時に家庭医が決定し、全ての病気の管理を家庭医が行います。
 また、患者の診療記録等の健康情報は、データベース化され集中管理されています。
 そのため、国民ひとりひとりが生まれてから死ぬまで、どのような病気にかかり、
 どのような治療を受けたのかが、明確に管理されているため、信頼性の高いデータを
 得ることができるのです。
 今後もデンマークから、この医療情報データベースを使い、様々な解析が行われ、
 全世界に向け、貴重な情報が発信されるでしょう。
 
 一方日本では、患者が病院を選んで受診するため、継続して同じ医療機関に通院せず、
 かかりつけ医を持たないケースも見られます。
 また、医療情報システムが病院ごとに異なるため、特定個人の医療情報を一貫して
 管理することはできません。
 日本でもデンマークのように、国民の健康情報を一貫管理できるような全国統一の
 医療システムの是非を議論したいですね。


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