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Team DiET Colloquium vol.78

原発性高コレステロール血症患者におけるアトルバスタチン単独またはPCSK9抗体との併用療法比較試験《第2相試験》

Atorvastatin with or without an Antibody to PCSK9 in Primary Hypercholesterolemia
(N Engl J Med 2012; 367:1891-1900 | November 15, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1201832

【背景】
 ・LDL-Cを低下させることは、心血管イベント抑制のために重要である。
 ・高用量のスタチンやエゼチミブ等を使用しても、LDL-Cを低下させることが
  できない症例がある。
 ・近年、血清中の前駆タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を
  標的として、LDL-Cを低下させる可能性のある高親和性完全ヒト抗体製剤
  (REGN727/SAR236553;抗PCSK9抗体)が開発され、研究が進められている。


【目的】
 ・スタチンによって良好なコントロールが得られない高LDL血症の患者に対して、
  スタチン療法に抗PCSK9抗体を併用し、得られる効果について検討する。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設共同二重盲検プラセボ対照試験


 ■対象:以下を満たす患者92例
   ・アトルバスタチン10mgによる治療を7週間以上受けてもLDL-C>100mg/dL
   ・18~75歳

 ■割付:(1:1:1の割合)
   下記の割付を8週間継続し、翌8週間はエントリー前の治療
   (アトルバスタチン10mgもしくは内服なし)に切り替えた。
    ◎80mg+PCSK9抗体群(30例)

      アトルバスタチン80mg(毎日)+PCSK9抗体(2週間毎)

    ◎10mg+PCSK9抗体群(31例)

      アトルバスタチン10mg(毎日)+PCSK9抗体(2週間毎)


    ◎80mg+プラセボ群(31例)

      アトルバスタチン80mg(毎日)+プラセボ薬(2週間毎)

 ■観察期間:8週間(追跡調査期間:8週間、合計16週間)

 ■主要評価項目
   ベースラインからのLDL-Cの変化


 ■副次的評価項目
   TC、HDL-C、TG、non-HDL、リポ蛋白a、アポ蛋白


【結果概要】

  ・観察期間終了後のベースラインからのLDL-C減少最小2乗平均(±SE)比率は、
   以下の通りであり、プラセボ群と比べ、PCSK9抗体併用群で、
   有意にLDL-Cが低下した。
      80mg+PCSK9抗体群 -73.2±3.5%(P<0.001)
      10mg+PCSK9抗体群 -66.2±3.5%(P<0.001)
      80mg+プラセボ群  -17.3±3.5%

  ・PCSK9抗体群では全例が、LDL-C<100mg/dLを達成したのに対し、
   プラセボ群では52%であった。
   PCSK9抗体群では90%以上が、LDL-C<70mg/dLを達成したのに対し、
   プラセボ群では17%であった。
  ・追跡調査期間終了後のLDL-Cは、PCSK9抗体群とプラセボ群で同等であった。


  ・観察期間終了後のベースラインからのHDL-C減少最小2乗平均(±SE)比率は、
   以下の通りであった(P値はプラセボ群と比較)。
      80mg+PCSK9抗体群  5.8±2.3%(P=0.005)
      10mg+PCSK9抗体群  2.6±2.3%(P=0.06)
      80mg+プラセボ群  -3.6±2.3%


  ・観察期間終了後のベースラインからのapoA1減少最小2乗平均(±SE)比率は、
   以下の通りであった(P値はプラセボ群と比較)。
      80mg+PCSK9抗体群 -2.2±2.3%(P=0.37)
      10mg+PCSK9抗体群  0.4±2.3%(P=0.09)
      80mg+プラセボ群  -5.2±2.3%


  ・観察期間終了後のベースラインからのリポ蛋白a、TC、non-HDL、apoBの
   減少最小2乗平均(±SE)比率は、プラセボ群と比べ、PCSK9抗体併用群で、
   有意に減少した。

  ・有害事象の発生数は以下の通りであり、10mg+PCSK9抗体群が最も少なかった。
      80mg+PCSK9抗体群  19例(61%)
      10mg+PCSK9抗体群  14例(45%)
      80mg+プラセボ群  18例(60%)




【結論要旨】

 ・アトルバスタチンでコントロール不十分な高LDL血症患者に抗PCSK9抗体を
  併用することで、LDL-Cをさらに改善できる可能性がある。




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【Team DiET の議論】

 本論文で注意する点は、試験の対象者です。
 日本でのLDL-C管理目標値は、冠動脈疾患の既往のある患者でLDL-C<100mg/dL、
 糖尿病や脳血管障害、末梢動脈疾患、ステージⅢ以上の慢性腎臓病の
 いずれかがある場合、LDL-C<120mg/dLとなっています。

 本試験での対象者の試験開始前(スタチン10mg服用7週間以上)のLDL-Cは
 平均123mg/dLでした。
 患者背景として、冠動脈疾患の既往患者は全体の3%、糖尿病患者は全体の15%、
 脳血管障害は全体の5%であり、LDL-Cを一次予防目的で、100mg/dL以下に
 下げる必要はないように感じました。

 試験が行われた米国では、LDL-Cの目標管理値が70mg/dL以下であるため、
 ここまで厳しい管理目標値になっているのだと考えられますが、あえて
 LDL-Cが低い患者を集めたように感じられます。

 アトルバスタチン10mgで、LDL-Cが充分に下がっている患者を対象に
 アトルバスタチンを80mgに増量したり、PCSK9抗体を併用したりする必要性が
 あまり感じられません。
 日本で認可されているアトルバスタチンの最大投与量(40mg)の倍にあたる
 80mgを投与しても、LDL-Cが17%しか減少しなかった理由がここにあるように
 思います。

 スタチンがLDL受容体(LDL-R)の合成を高めてLDL-Cを低下させるのに対し、
 PCSK9抗体は、LDL受容体の分解を阻害して、LDL-Cを低下させることから、
 両者の作用は総花的であると予想されます。
 以前のメルマガ(vol.50)で紹介した第1相試験では、スタチン併用の有無で
 LDL-C低下効果に差はないが、非併用群の方がLDL-C低下効果持続時間が長いことが
 明らかとなっています。
 日本人にアトルバスタチンを投与すると筋症状を訴える患者も多く、併用療法ではなく
 PCSK9抗体単独での効果を知りたいと思います。

 本試験のような短期間では、有害事象にあまり差はありませんでしたが、
 この作用機序の異なりが、長期的な安全性にどのくらい関わってくるのか、
 今後の研究の結果を待ちたいと思います。



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