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Team DiET Colloquium vol.79

腎機能障害を伴った2型糖尿病患者を対象としたアリスキレン(ラジレス)併用比較試験《ALTITUDE Trial》

Cardiorenal End Points in a Trial of Aliskiren for Type 2 Diabetes
(N Engl J Med 2012; 367:2205-2213 | December 6, 2012)

http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1208799

【背景】
 ・RAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬)は、単純な降圧薬としての効果以上に
  様々な利点を有しており、非常に有用である。
 ・アリスキレン(ラジレス)は直接的なレニン阻害薬であり、血漿レニン活性を
  低下させる。

 ・理論的にACE阻害薬やARBとの併用は、単剤投与と比較してより良い効果が期待されるが、
  過去のRCTで併用療法の有用性は示されていない。
 ・その理由として、アルドステロンエスケープや代償性のレニン活性化などが
  報告されていることがあげられる。

 ・糖尿病腎症を対象にしたARBとラジレスの併用試験において、アルブミン尿を
  より低下させたとの報告がある一方で、RAS阻害薬とラジレス併用療法の
  心血管イベントや腎イベントに対する有用性は明らかにされていない。


【目的】
 ・腎障害あるいは腎機能が低下している2型糖尿病患者を対象として、
  RAS阻害薬とラジレスの併用が、心血管イベントおよび腎イベントに与える
  効果について検討する。


【方法概要】
 ■デザイン:多施設共同二重盲検プラセボ対照試験(36カ国)

 ■対象:2型糖尿病を有し、以下の条件を1つ以上満たす患者8,561例
   ・尿蛋白
   ・微量アルブミン尿かつ腎機能低下
   ・心血管イベントの既往かつ腎機能低下

 ■割付:(1:1の割合)
   ◎ラジレス群
     ACE阻害薬またはARB(両剤の併用は認めない)にラジレス300mg/日を併用
   ◎プラセボ群
     ACE阻害薬またはARB(両剤の併用は認めない)にプラセボ薬を併用

 ■観察期間:4年間(平均追跡期間:32カ月)
   (2007年から開始され、2013年2月に終了予定だったが、中間解析の結果、
    ラジレス併用により副作用発生率が高まる傾向が認められたため、
    2011年12月に早期中止された)

 ■複合主要評価項目
   心血管死、突然死からの蘇生、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
   心不全による入院、末期腎不全または腎死、血清クレアチニン値倍加

 ■複合副次的評価項目
   心血管イベント、腎イベント


【結果概要】
  ・複合主要評価項目の発生率は以下の通りであり、両群間に有意差は見られなかった。
      ラジレス群 17.9%(ハザード比1.08)
      プラセボ群 16.8%

  ・心血管疾患複合評価項目の発生率は以下の通りであり、両群間に有意差は
   見られなかった。
      ラジレス群 13.8%(ハザード比1.11)
      プラセボ群 12.6%

  ・腎疾患複合評価項目の発生率は以下の通りであり、両群間に有意差は見られなかった。
      ラジレス群  6.0%(ハザード比1.03)
      プラセボ群  5.9%

  ・主要評価項目を個別にみると、脳卒中と突然死からの蘇生で、有意差はないものの、
   ラジレス群で多い傾向がみられた。
   《脳卒中》
       ラジレス群  3.4%(ハザード比1.22)
       プラセボ群  2.8%
   《突然死からの蘇生》
       ラジレス群  0.4%(ハザード比2.40)
       プラセボ群  0.2%

  ・試験期間中、副作用で中断となった割合は以下の通りであった。
       ラジレス群 33.8%(P=0.001)
       プラセボ群 28.4%
  ・試験期間中、副作用で内服が中止となった割合は以下の通りであった。
       ラジレス群 13.2%(P<0.001)
       プラセボ群 10.2%

  ・最も高頻度の副作用は、高カリウム血症であり、ラジレス群で有意に多かった。
   また、最も多い中断理由であった。
       ラジレス群 39.1%(P<0.001)
       プラセボ群 29.0%
  ・その他、低血圧症および下痢の副作用が、ラジレス群で有意に多かった。


【結論要旨】
 ・心血管および腎イベントのハイリスク2型糖尿病患者における、RAS阻害薬による
  標準治療へのアリスキレンの追加は、本研究からは支持されず、有害となる可能性も
  示唆された。


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【Team DiET の議論】
 中間解析の結果や臨床試験の中止でわかっていたこととはいえ、ラジレスに印籠を
 渡してしまう結果となってしまいました。

 レニン阻害薬のラジレスは、レニン・アンジオテンシン系サイクルの起点を阻害するため、
 血圧降下作用が期待されていましたが、その降圧作用は上限量(300mg/日)を使用しても
 収縮期血圧が14mmgHg低下する程度で、もともと強い効果はありません。
 そのため、単独使用ではなく、他のRAS阻害薬との併用で相乗効果を狙ったはずが、
 見事に当てが外れてしまったように感じます。

 今回は心血管および腎イベントのハイリスク2型糖尿病患者を対象者としてしまっため、
 集まった被験者の平均血圧は137/74mmHgとかなり目標値に近い数値となっています。
 また、平均年齢も64歳であり、降圧に注意が必要な高齢者が大半です。
 これらの患者に対し、通常の診察の際、更に薬を併用するでしょうか?

 前回のメルマガで紹介したLDL降下薬の治験でも、LDL管理目標値に近い患者を集め、
 試験を行っていましたが、本試験でも同様の臭いを感じます。
 多くの被験者を集めるには、対象患者の枠を広げる必要があり、その結果、
 薬を併用しなくてもよい患者まで、被験者になっているように感じました。
 薬剤抵抗性があり、なかなか血圧が下がらない患者や、コントロール不良の患者を集め、
 再試験を行えば、ラジレスにも道は開けるかもしれません。

 再試験を行う前に解析して欲しいことは、有害事象を発症した患者の背景です。
 特にラジレス群で有意に多くなってしまった高カリウム血症、低血圧症、下痢に関しては
 誰に投与するとリスクが高いのかを解析してからでないと、試験終了を待たずに中止と
 いう結果になるでしょう。


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