Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.81
糖尿病高リスク者を対象とした2型糖尿病検診の死亡率への影響<ADDITION-Cambridge試験>
Screening for type 2 diabetes and population mortality over 10 years
(ADDITION-Cambridge): a cluster-randomised controlled trial
(The Lancet, Volume 380, Issue 9844, Pages 807 - 814, 1 September 2012)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2961422-6/fulltext
【背景】
・2型糖尿病は年々増加しており、糖尿病を予防することは公衆衛生学上の大きな
課題となっている。
・2型糖尿病は、早期治療を行うことで、合併症の発症を抑制できる。
・糖尿病スクリーニングが、糖尿病関連死と全死亡率を低下させることを示唆する報告が
あった。
・前立腺癌や子宮頸癌のように2型糖尿病のスクリーニングが生命予後を
改善するかは明らかになっていない。
【目的】
・糖尿病の早期発見と治療介入による生命予後改善効果について検討する。
【方法概要】
■デザイン:多施設共同クラスター無作為化試験(英国東部地域)
■対象:
英国東部地域のプライマリ・ケア(33施設)において、事前の評価で2型糖尿病の
発症リスクが高いと判定された40~69歳の20,184例
■割付:
プライマリ・ケア施設ごとに割付を行った。
◎強化治療施設;15施設
検診を行い、2型糖尿病と診断された患者に対して、多元的な強化療法を行う
◎従来治療施設;13施設
検診を行い、2型糖尿病と診断された患者に対して、糖尿病診療ガイドラインに
準拠した従来治療を行う施設
◎非スクリーニング施設; 5施設
検診を行わない施設
■追跡期間:中央値9.6年
■主要評価項目
全死因死亡
【結果概要】
・スクリーニング施設(強化治療施設および従来治療施設)における対象者は、
16,047例であり、そのうち、466例(3%)が糖尿病と診断された。
・対照施設における対象者は、4,137例であり、そのまま追跡した。
・全死因死亡は以下の通りで、ハザード比は1.06となり、スクリーニング群
と非スクリーニング群で同等であった。
スクリーニング群 : 1532例(9.5%)
非スクリーニング群: 377例(9.1%)
・心血管死については以下の通りで、ハザード比は1.02となり、スクリーニング群
と非スクリーニング群で同等であった。
スクリーニング群 : 482例(3.0%)
非スクリーニング群: 124例(3.0%)
・癌死については以下の通りで、ハザード比は1.08となり、スクリーニング群
と非スクリーニング群で同等であった。
スクリーニング群 : 697例(4.3%)
非スクリーニング群: 169例(4.1%)
・また、糖尿病関連死についてのハザード比は1.26であった。
【結論要旨】
・英国の2型糖尿病高リスク者のスクリーニングは、10年では全死亡率、
糖尿病関連死亡率の低下と関連していなかった。
・糖尿病の集団ベースのスクリーニングが実施される場合、心血管疾患、
糖尿病の危険因子の評価と管理、人口レベル、予防戦略を考慮して
実施されるべきである。
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【Team DiET の議論】
「検診と死亡率低下に関連がない」という結果に驚いた方も多いのではないでしょうか。
日本でも2008年から糖尿病などの生活習慣病を予防するためにメタボ健診が行われており、
この論文の結果が、日本でどのような影響を及ぼすのかと、心配される方もいるかも
しれません
しかし、Team DiETはこの結果を日本に当てはめることより、この結果が英国で
どのように受け止められていくのかが気になります。
本論文では結果ばかりに焦点があたり、結果に至る経緯が明らかになっていません。
例えば、強化治療施設に割付られた施設での、実際の治療やその治療効果です。
英国の医療経済は破たんしており、大病院ですらHbA1cを半年や1年に1回程度しか
測定しないと聞きます。
そんな状況で適切な介入ができたといえるでしょうか。
本論文では、治療のクオリティや試験終了時のHbA1cなどの結果が示されていません。
治療方針としては、HbA1c<7.0%を目指すとしていても、実際に治療できていなければ
意味がありません。
更には、英国では家庭医制度が導入されているため、非スクリーニング群であっても、
介入が行われていた可能性も捨てきれません。
また、家庭医は患者の健康状態や家族歴について豊富な知識があるため、
糖尿病発症の危険性が高い患者に対し、先手が打たれていた可能性があります。
年齢やBMI、家族歴などで、2型糖尿病発症リスクが高いと判定された対象者でありながら、
実際に10年間で糖尿病を発症したのは、わずか3%であり、極めて糖尿病発症率が低い
結果といえます。
これでは、例え効果的に糖尿病治療が行われていたとしても、糖尿病患者が少ないことで
母集団に紛れてしまい、検診や治療効果が希釈されてしまうのではないでしょうか。
今回の論文では、強化治療群と通常治療群との比較について一切述べられていないため、
今後、論文として発表されると考えられます。
その際には、糖尿病を発症して介入した人の予後についても、明らかにしてもらいたいと
思います。
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