Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.83
肥満に関する神話と俗説と事実
Myths, Presumptions, and Facts about Obesity
(N Engl J Med 2013; 368:446-454 | January 31, 2013)
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMsa1208051
【背景】
・肥満に関する情報には、矛盾する科学的根拠(エビデンス)があるにも関わらず、
根強く信じられている「神話」が存在する。
・また同様に、科学的根拠に欠いているが信じられている「俗説」も存在する。
・これらの科学的根拠のない情報が、政策決定や公衆衛生に悪影響を及ぼす危険性があり、
また無益な研究資金分配が行われる可能性がある。
【目的】
・肥満に関する情報を、以下の3通りに分類し、科学的根拠について検討する。
科学的根拠と矛盾する 「神話」:7つ
科学的根拠を欠いている「俗説」:6つ
科学的根拠がある 「事実」:9つ
【結果概要】
≪神話について≫
1.エネルギー摂取と消費を少しずつ改善し続ければ、長期的には大きな減量につながる
⇒【 × 】
・わずかな変化の積み重ねでは、大きな体重変化にはつながらない。
・計算上は、毎日1.6km歩いて100kcalの消費をすれば、5年間で22.7kg減量となるが、
実際には5年間で4.5kgしか減量できない。
2.現実的な減量目標が重要
⇒【 × 】
・合理的な仮説ではあるが、これまでの研究では目標設定と減量の間で
一貫した関連性を示せていない。
・いくつかの試験では、現実的な目標より高い目標の方が減量できたと
報告している。
3.急激に減量するより、ゆっくり減量する方が良い
⇒【 × 】
・減量試験では、ゆっくりな減量に比べ、急激な減量の方が
より大きい減量効果があったと報告している。
4.減量には心構えが重要であり、減量の成果を褒めることが継続につながる
⇒【 × 】
・減量の準備や減量に取り組む姿勢の改善では、減量には結びつかない。
・減量を評価しても、減量を持続させることはできない。
5.子供の肥満防止には、体育の授業が役立つ
⇒【 × 】
・身体活動量と体重の間に相関があることは確かであるが、
体育の授業で肥満の予防・改善までの効果があるとは言い難い。
6.母乳で育てると、その子供は肥満になりにくい
⇒【 × 】
・母乳にはたくさんの利点はありますが、子供の肥満の予防にはならない。
7.性行為による消費エネルギーは100~300kcal(ジョギング程度)
⇒【 × 】
・30歳代前半の男性が性行為で消費するカロリーは20kcal程度であり、
ダイエットにはならない。
≪俗説について≫
1.規則正しく朝食を食べることは肥満の予防に役立つ
⇒【 △ 】
・2つの無作為化比較試験では、朝食の有無と体重変化に関連はないと
報告している。
2.子供の頃の運動や食事の習慣が、一生の体重に影響する
⇒【 △ 】
・長期の遺伝子研究では、肥満は幼年期の生活習慣よりも遺伝子型の役割が
大きいと結論付けている。
3.野菜や果物を多く取ると、運動や食事制限をしなくても体重が減る
⇒【 △ 】
・野菜や果物の摂取が健康に良いことは事実だが、減量にはつながるとは
言い切れない。
4.減量とリバウンドの繰り返しは寿命を縮める
⇒【 △ 】
・体重増減の繰り返しと死亡率上昇には、関連性があると報告されているが、
おそらく健康状態にも関連しており、他の要因の影響を受けている可能性がある。
・また、動物実験でもこの関連性を証明できていない。
5.間食は体重増加や肥満につながる
⇒【 △ 】
・無作為化比較試験では、関連を否定する結果が示されている。
・また、観察研究の結果は一貫しておらず、関連を示せていない。
6.歩道や公園などの環境の有無が肥満に影響を与える
⇒【 △ 】
・周辺にある運動できる環境と肥満リスクの関連を示す観察研究があるが、
一貫した関連性を示していない。
≪事実について≫
1.肥満については遺伝的要因が大きいが、生活習慣を改善することで肥満を克服できる
2.エネルギー摂取量を減らせば、効果的に減量できる
3.十分な運動や身体活動は、運動は健康増進に役立つ
4.体重維持には十分な量の運動が必要である
5.肥満は慢性的なものであるため、減量促進の状態を継続することが重要
6.子供の肥満の場合は、両親と共に減量に取り組み、家庭の環境整備を図ることが重要
7.給食や食事代替製品は、減量の手助けとなる
8.いくつかの医療品は、減量の達成に有効であり、使い続ける限りは効果がある
9.減量手術は、長期的な減量、糖尿病発症予防、死亡率減少に有効
【結論要旨】
・人々は、肥満に関する情報が単に繰り返し報道されているというだけで、
信憑性が高いものと信じてしまう傾向にあり、神話や俗話が生まれてしまう。
・肥満に関する知識の現状をオープンかつ正直にすべきであり、科学的根拠が
証明されていない情報については厳しく正し、誤った情報の拡散を防ぐべきである。
-----------------------------------------
【Team DiET の議論】
今回のレビューは明日からの患者指導を省みる多くの材料を提供しています。
Team DiETとしても、高すぎる目標を掲げるのではなく、実践できそうな目標を掲げ、
達成感や効果を確認しながら、少しずつ減量をしていく方針で指導してきたのですが、
エビデンスのない事実と判明し驚きました。
「高い目標が有効」「急激なダイエットが有効」という結論のみを
そのまま普遍化するのは危険です。
例えば、「ゆっくりな減量に比べ、急激な減量の方がより大きい減量効果があった」と
報告されていますが、元の論文を読みむと、以下のような試験方法になっています。
【方法概要】
■対象:肥満の中年女性;262例
■割付:6ヶ月間生活改善(食事・運動)を行い、6ヶ月後の体重減少率にて割付
◎急激減少群
平均で月平均2.7%減少
◎通常減少群
平均で月平均1.1~2.6%減少
◎緩慢減少群
平均で月平均1%減少
■追跡期間:6ヶ月の生活改善+12ヶ月のフォローアップ
■主要評価項目:フォローアップ期間後の体重変化
急激な体重減少と聞くと、月に5~10kgの減量と想像されるかもしれませんが、
急激減少群に割りつけられた被験者は、月平均2.7%の体重減少に収まっていることです。
被験者の平均体重は96kgであり、月平均は2.6kgです。
また事実の部分にも述べられていますが、肥満には減量促進状態の継続が重要であり、
長期的な体重維持が必要となります。
しかし、上記試験の試験期間は18ヶ月であり、5年後、10年後は検証されていません。
これだけの試験背景を知った上で「急激なダイエットが有効」と考えるのは
間違いではありません。
このようにメタ解析論文のピットフォールに陥ることなく、本質を見極めたいものです。
そのためには、総説やメタ解析のみならず、時には原著論文をじっくり読み込むことが
必要不可欠です。
メールマガジン配信のご登録は「メールマガジン登録フォーム」よりご連絡ください。