Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.84
脂質異常症の退役軍人を対象とした死亡リスクに対する運動とスタチンの併用効果<コホート研究>
Interactive effects of fitness and statin treatment on mortality risk in
veterans with dyslipidaemia: a cohort study
(The Lancet, Volume 381, Issue 9864, Pages 394 - 399, 2 February 2013)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2961426-3/abstract
【背景】
・スタチン系薬剤は、一般的に脂質異常症と心血管疾患の管理のために処方されている。
・運動量の増加は、低死亡率に関連付けられており、健康を促進するのに
不可欠な要素として推奨されている。
・しかし、総死亡リスクにおける運動療法とスタチン治療の効果に関する情報は少ない。
【目的】
・総死亡における運動療法とスタチン治療の併用効果を評価した。
【方法概要】
■デザイン:前向きコホート研究
■対象:以下を満たす患者;10,043例
・脂質異常症患者
・1986年~2011年の間に運動負荷試験を実施
・カリフォルニア州パロアルト及びワシントンDCの退役軍人医療センターの患者
■割付:
◎スタチン使用群(5,046例)
◎スタチン非使用群(4,997例)
スタチンの服用の有無で2群に分け、トレッドミルで測定した運動耐容能量より
更に以下の4群に割り付けた。
◎5MET未満(低運動量群)群 :<5.0METs
◎5.1-7.0MET群 :5.1~7.0METs
◎7.0-9.0MET群 :7.0~9.0METs
◎9.1MET以上(高運動量群)群:>9.1METs
■追跡期間:10年
■主要評価項目
年齢、BMI、人種、性別、心血管疾患の既往、心臓血管薬、心血管リスク因子で
調整した全死因死亡率
【結果概要】
・追跡期間の間に2,318人が死亡(22人/1000人年)。
・全死因死亡率は以下の通りであり、スタチン使用群で死亡リスクを有意に低減した。
スタチン使用群 :18.5%(935/5,046例)
スタチン非使用群:27.7%(1,386/4,997例)
・スタチン使用群は非使用群と比べて、年齢、BMIが高く、運動耐容量が低い傾向にある。
・また、スタチン使用者群は非使用群と比べて、心血管疾患、高血圧症、2型糖尿病の
罹患率が高く、高血圧治療薬とアスピリンの使用も高かった。
・スタチン使用・5MET未満群を1とした場合のハザード比は以下の通りであり、
両群共、運動耐容量の増加に伴い、死亡率は低下した。
<スタチン使用群>
5MET未満 群:1.00
5.1-7.0MET群:0.65(P<0.0001)
7.0-9.0MET群:0.41(P<0.0001)
9.1MET以上群:0.30(P<0.0001)
<スタチン非使用群>
5MET未満 群:1.35(P<0.0001)
5.1-7.0MET群:1.02(P=0.81)
7.0-9.0MET群:0.81(P=0.01)
9.1MET以上群:0.53(P<0.0001)
【結論要旨】
・スタチン治療の有無に関わらず、運動耐容能量の増加は、脂質異常症患者の死亡リスクを
低下させる。
・運動耐容能量が高いほど、死亡リスクは低下する。
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【Team DiET の議論】
以前のメルマガでもご紹介した通り、スタチンについては、「糖尿病発症率を高めるが、
心血管イベントを抑制でき、その効果は糖尿病発症リスクを上回る」ことが
報告されています(Team DiET Colloquium vol.73)。
本試験ではスタチン服用により全死因死亡リスクを低下させており、スタチンにとって
更なる追い風となったのではないでしょうか。
また、全死因の内容が明らかになっていないのですが、運動療法で心血管イベントの
残存リスクが回避できていたのであれば、運動療法併用の重要性が更に高まります。
今回の結果で間違えて欲しくないのは「運動療法の代わりにスタチン投与ではない」
ということです。
スタチン使用5MET未満群とスタチン非使用5.1-7.0MET群の死亡率はほぼ同じであり、
運動していなくても、スタチンを服用していれば死亡率は上がらないという考え方も
できますが、別な見方をすれば、スタチンを飲んでいなくても、高い運動耐容能量を
維持できれば、スタチンと同等の効果は得られるということです。
本試験では実際の活動量ではなく、トレッドミルによる運動耐容能量で評価しているため、
必ずしも9MET以上の高運動量群が習慣的に運動をしているとは限りません。
また、ベースラインでの運動耐容能量で割付を行っているため、追跡期間中にどれだけ
運動していたかも明らかになっていません。
そのため、厳密な運動療法効果の評価とはいえませんが、患者さんに運動療法を勧める時には、
充分な決め台詞になるのではないでしょうか。
ですが、運動耐容能量が上がるほど死亡リスクが低下することを強調しすぎると
急激に高負荷の運動をはじめてしまう可能性があります。
運動耐容能量は一過性の運動で上がるものではなく、日常的に身体を動かすことが重要であり、
現在の活動量を踏まえた上で、少しずつ活動量を増やすよう指導して欲しいと思います。
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