Team DiET メールマガジンバックナンバー
Team DiET Colloquium vol.55
メトホルミン単剤ではコントロール不十分な早期2型糖尿病患者を対象としたランタスとシタグリプチンの有効性比較検討試験≪EASIE試験≫
Insulin glargine versus sitagliptin in insulin-naive patients with type 2
diabetes mellitus uncontrolled on metformin (EASIE): a multicentre,
randomised open-label trial
(The Lancet, Volume 379, Issue 9825, Pages 1489 - 1497, 21 April 2012)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60439-5/abstract
【背景】
・2型糖尿病ではメトホルミンが治療の中心薬として用いられている。
・2型糖尿病患者の大部分は、メトホルミン 単剤による血糖コントロールは不十分。
・近年、DPP-4阻害薬はSU薬に代わり、2型糖尿病患者の第二選択薬として用いられている。
・過去の論文では、メトホルミンに加え、早期に持効型インスリンを併用することで、
HbA1c改善効果と高い忍容性が示されている。
・メトホルミン単剤にて血糖コントロール不十分な2型糖尿病患者における併用薬として、
DPP-4阻害薬と持効型インスリンとを比較検討した試験は未だ存在しない。
【目的】
・メトホルミン単剤ではコントロール不十分な2型糖尿病患者において、
持効型インスリン(グラルギン)併用およびDPP-4阻害薬(シタグリプチン)併用による
治療効果・安全性・忍用性に関し、比較検討する。
【方法概要】
■デザイン:国際多施設共同無作為化非盲検試験(17カ国)
■対象:以下の条件を満たす2型糖尿病患者:480名
・35~70歳
・診断から6ヶ月以上経過
・メトホルミン内服中
・HbA1c 7~11%
・BMI 25~45kg/㎡
・自己血糖測定および記録が可能
■割付(1:1の割合)
◎ランタス群(227名)
0.2単位/kgからはじめ、空腹時血糖が72〜99mg/dlとなるように投与量を変更
◎シタグリプチン群(253名)
100mg/日を経口投与
■評価項目
◎主要評価項目
・治療24週後のHbA1cの変化
◎副次的評価項目
・HbA1cの変化
・HbA1c<7%, 6.5%を達成した割合
・空腹時血糖値
・一日血糖プロファイル
・インスリン投与量
・脂質プロファイル
◎安全性評価項目
・一般血算・生化項目
・体重
・バイタルサイン
・低血糖
【結果概要】
・HbA1cの結果は以下の通りとなり、ランタスでより改善効果がみられた。
・ランタス群 :ベースライン時より-1.72%(有意に改善)
・シタグリプチン群:ベースライン時より-1.13%
・HbA1c<7%の達成率については、ランタス群で68%、シタグリプチン群で42%であり、
HbA1c<6.5%の達成率については、ランタス群で40%、シタグリプチン群で17%だった。
・空腹時血糖値についても、シタグリプチン群と比し、ランタス群は有意に改善を認めた。
・一日血糖プロファイルについても、ランタス群の方がより改善していた。
・有害事象の発現率は以下の通りで、シタグリプチン群と比し、ランタス群で少なかった。
・ランタス群 :45.6%
・シタグリプチン群:54.2%
・低血糖の発生率は以下の通りで、シタグリプチン群と比し、ランタス群で有意に多かった。
・ランタス群 :4.21件/人年(有意に多い)
・シタグリプチン群:0.50件/人年
・しかし、重症低血糖の発生率では有意な差は生じなかった。
・体重変化は以下の通りとなり、シタグリプチン群と比し、ランタス群で増加した。
・ランタス群 : 0.4kg
・シタグリプチン群:-1.1kg
【結論要旨】
・今回の試験結果は、メトホルミン単剤ではコントロール不十分な2型糖尿病患者において、
持効型インスリン併用により、早期に適切な血糖コントロールを得ることができ、
より多くの患者が良好な血糖コントロールを長期間達成できる可能性を示唆した。
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【Team DiET の議論】
ランタス群では、「空腹時血糖が72〜99mg/dl」になるように投与量を調整し、
最終的には0.5単位/kg(100kgの患者で50単位!!)が投与されていますが、
対するシタグリプチン群では、薬剤の増量は一切行われていません。
このレジメンであれば、ランタス群でHbA1cが有意に改善するのは、当たり前の結果の様に
感じました。
このような結果を根拠に、糖尿病治療薬のセカンドラインとして、ランタスをあげるのは、
乱暴な結論であるように思います。
メトホルミン+DPP-4阻害薬でも血糖コントロールが不十分であれば、
グリニド/αグルコシダーゼ阻害薬を併用、不十分なら少量のSU薬を併用する、
あるいはDPP-4阻害薬をGLP-1受容体作動薬に切り替える選択肢もあります。
これらのステップアップでも血糖コントロールが不十分であった場合、
インスリンへの切り替えを考慮しても良いのではないかと考えます。
研究のスポンサーもSanofi社のみのようであり、結果の解釈や結論の導き方に
バイアスを感じます。
先日、NEJM誌に発表された、早期2型糖尿病や糖尿病予備群を対象とした
心血管系疾患抑制比較試験(ORIGIN試験)で「ランタス」vs「経口薬などによる一般的な治療」
での比較検討が行われ、ランタス群は経口薬などによる一般的な治療群と比し、
心血管イベント抑制に関して優位性を示すことができませんでした。
この試験でも、ランタスの長期使用は癌や心血管イベントの増加を伴わず安全である、
という都合の良い解釈が流布しています。
この試験もやはりSanofi社がスポンサーのみがスポンサーです。
これまでインスリンは心血管系イベントを他の治療薬よりも抑制できるとされてきましたが、
世界40か国の1万2537人が参加し、6年間にわたって実施されたORIGIN試験の結果を見る限り、
その優位性は明らかではありません。
臨床試験には莫大な研究費が必要であり、製薬会社と医師の協力は大切ですが、
結果の解析や解釈似まで製薬会社が介入することは、患者を守る点において望ましくありません。
2型糖尿病患者の負担を軽減しながら、心血管イベントや発癌を抑制するファースト治療薬は
何なのか、医師主導の議論を深めるべき時に来ているといえるでしょう。
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