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Team DiET Colloquium vol.69

慢性腎臓病(CKD)および糖尿病腎症患者の運動療法について

Exercise in kidney disease and diabetes: time for action
(Journal of Renal Care; 38(1):52-58 | February 14, 2012)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1755-6686.2012.00279.x/full [ch0]

【背景】
 ・定期的な運動は、健康的なライフスタイルの構成要素のひとつである。
 ・慢性疾患のマネージメントにおける運動の重要性も急速に許容されている。
 ・糖尿病に対しては、ガイドラインにより運動の重要性が示されているが、
  慢性腎臓病や糖尿病腎症に対しては、運動療法の情報が不足している。

 ・2011年に発表されたCochrane reviewのメタアナリシスでは、いくつかの有酸素運動は
  腎疾患治療において利益があったことを報告した。
 ・しかし、有酸素運動の最適運動様式を確立するためには、更なる厳密な調査が必要であり、
  また、レジスタンス・トレーニングについても役割を確立する必要があるとしている。

 ・運動が絶対的な禁忌でない大多数の腎臓病患者にとって、身体活動性を上げることは、
  特定の運動様式が確立するよりも先に行われなければならない。
 ・イギリスでは、CKDガイドラインに運動療法が必要不可欠であることを加える予定だが、
  確固たるエビデンスは確立されていない。

【目的】
 ・腎疾患患者に対する運動療法について、現時点での最新の研究結果をまとめ、検討を行う。


 <腎疾患の進行【1】>
  【背景】
   ・運動がCKDの進行に影響を及ぼすかどうかの証拠は確定的ではない。
  【結果要旨】
   ・軽度〜中等度のCKD患者(26例)に、12週間の低強度の水中運動プログラムを
    行った結果、血圧減少・蛋白尿減少とGFRのわずかな改善となった。
   ・しかし、別のいくつかの研究では、血圧の減少はしたが、GFRは改善しなかった。
   ・また、動物実験においても、60日間のトレッドミル運動でGFRの改善はみられていない。
   ・全ての試験において、大規模で長期間のランダム化試験が実施されていないという
    問題点がある。


 <腎疾患の進行【2】>
  【背景】
   ・アルブミン尿に対する運動の効果は、臨床的に大きな意味がある。
  【結果要旨】
   ・2型糖尿病患者のアルブミン尿は、内皮機能障害と軽度の炎症を伴う。
   ・運動は炎症の減少と関連し、炎症と微量アルブミン尿にも明確な関連がある。
   ・このように運動によって引き起こされた炎症や酸化ストレスの減少は、蛋白尿を減少させ、
    腎臓病の進行を遅らせるかもしれない。

 <心血管リスク>
  【背景】
   ・CKDおよび糖尿病腎症患者は、心血管疾患発症リスクが高い。
  【結果要旨】
   ・身体活動量の低下は重要な心血管疾患リスクであり、身体活動量を上げることは、
    肥満・高血圧・脂質異常症などの危険因子を減少させるだけでなく、インスリン抵抗性・
    全身性炎症の減少に有益である。
   ・習慣的な身体活動量を高めることは、腎機能の増悪を遅くし、また有酸素運動については、
    CKD患者と透析患者において、心血管機能を改善させた。

 <筋肉量>
  【背景】
   ・CKD患者と透析患者において、筋肉量の減少には多くの要因があり、完全には
    理解されていないが、筋肉量の減少は、腎機能の悪化と死亡率に関連している。
  【結果要旨】
   ・筋肉は身体機能の全ての側面で必要であり、脂肪とグルコースの処理や炎症において
    重要な代謝活性を行う組織である。
   ・そのため、CKD及び糖尿病腎症患者において、良好な筋肉量を維持することは重要である。
   ・しかし、これらの患者において、筋力トレーニングを行っても、筋力の増強はみられるが、
    筋肉量は期待するほど増やすことはできない。

 <精神疾患>
   ・うつはCKDでも糖尿病でもよくみられる。
   ・CKDまたは糖尿病を患う、うつ病患者に対する運動の効果について、適切な検証はない。
   ・一般的なうつ病患者の場合、初期~中期に対しては運動の効果がある。

 <QOL>
   ・全てのCKDステージ患者において、運動プログラムを実施したところ、心血管状態及び
    運動機能の改善が得られ、QOL向上につながった。
   ・運動機能を維持することは、本人だけでなく家族や介助者の負担を少なくし、ひいては
    社会的コストの削減にもつながる。

 <他の潜在的な利点>
   ・骨の健康や食欲コントロールといった面における運動の効果について、適切な研究は
    ないが、更なる魅力的な効果が期待されている。
   ・移植準備に向けた運動の役割も重要な研究分野であり、現在明らかなのは、レシピエントと
    ドナーの良好な身体・精神状態が、良好な術後経過をもたらすということである。

 <腎疾患患者への運動について【1】>
  【背景】
   ・透析患者の多くは、座りがちの生活になる傾向がある。
  【結果】
   ・最近のメタアナリシスにより、運動の絶対的禁忌は、透析患者の25%程度であることが
    示された。
   ・透析中の運動は、自転車エルゴメータを用いたものが多く、時間的にも機会的にも
    有効的である。
   ・自転車エルゴメータを用いた運動は、有酸素運動による一般的な効果だけでなく、
    透析効率の改善も得られ,また、むずむず病や不安定な血圧といった透析関連の
    有害事象減少に役立っている。

 <腎疾患患者への運動について【2】>
   ・糖尿病を有する移植患者は、移植後も運動を実施することは重要である。
   ・最近のレビューでは、腎移植患者の運動は身体機能・有酸素機能・筋力を向上させるため、
    推奨されなければならないと結論付けている。

 <運動指導について【1】>
   ・日常生活の活動度と段階付の簡単なツールは開発されているが、簡便なものであり、
    運動をする動機づけにはなっていない。
   ・運動処方は複雑だが、基本原則は単純であり、多くの人は今よりも活動的な生活をする
    必要がある。
   ・また、個々の活動レベルを身体症状と禁忌レベルにより設定しなくてはいけない。
   ・運動指導には、理学療法士による専門的な指導が必要であるが、初期ステージの患者への
    運動指導は、ある一定の水準を満たすジムであれば指導は可能である。

 <運動指導について【2】>
   ・最近発表されたスウェーデンのCKDガイドラインでは、以下の内容が盛り込まれており、
    全ての運動は、ある程度のリスクを背負い、腎機能を悪化させる可能性はあるが、
    座ってばかりの生活が腎機能の増悪と死亡率上昇の重要な因子となっていることを
    念頭に置かなければならないとしている。
     ・一般的な運動処方をする上で有用な枠組みを提供している。
     ・身体活動レベルを向上させるために運動リスクレベルと絶対的禁忌を含んでいる。
     ・糖尿病腎症のガイドラインと糖尿病関連リスクについても考慮されている。
     ・ポイントは、運動・食事・薬のタイミングとフットケアとなっている。

 <運動指導について【3】>
   ・腎臓病に対して、最大限の生理的な臨床成果を得るのに必要な運動の頻度・強さ・
    継続時間及びタイプは、まだ完全には確立されていない。
   ・生理的な変化はなくても、運動の実施が精神的・社会的に有益になることは、
    初期の段階で現れる(生理的な変化を得るには長期の経過を必要とする)。
   ・腎疾患患者を対象とした身体活動に関する障害の研究は行われていない。
   ・多数の患者に有益な運動方法の確立は、専門的な指導というよりは、社会心理学的で
    教育学的な介入を必要とする。

【結論要旨】
 腎臓病治療における運動療法について、国家的・国際的な認識は高まっているが、現時点では
 心疾患や呼吸器疾患のような専門的指導は行われていない。
 ただし、腎疾患治療の現場では、身体活動量を評価し、活動量の向上を可能な限り、
 促さなければならない。

 運動には多くの効果があり、欠点も少ないため、腎臓疾患の特効薬となる可能性があり、
 CKDおよび糖尿病腎症の全てのステージで、身体状況とQOLを改善する大きな可能性がある。
 ただし、通常の薬と同様に継続が重要となってくるため、習慣化できる運動でなければならない。


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【Team DiET の議論】
 以前は腎疾患患者における運動は、蛋白尿や腎機能障害を悪化させるという懸念から、
 一般的に推奨されてきませんでした。
 しかし、2009年に日本腎臓学会が発表したCKDガイドラインによれば「身体活動度の低下は、
 心血管疾患による死亡のリスクを高めるため、CKD患者においても運動療法が重要となりうる」と
 しています。

 日本人のCKD患者を対象とした前後比較試験でも、運動による蛋白尿の増加は一過性であり、
 長期的(2週間)に運動を行ったとしても、蛋白尿が増加することはありませんでした。
 また、運動によるGFR低下も一過性であり、長期的(20ヶ月)に運動を行った観察研究でも、
 GFRが低下することはなかったと報告されています。

 CKDのステージにもよりますが、中程度の強度で30分程度の運動を行う事は、推奨されています。
 また、糖尿病腎症についても同様で、ステージによりますが、運動は推奨されています。

 ただし、腎疾患患者の運動の程度(強度や時間)は、病状や年齢、合併症などを考慮して
 決めていく必要がありますが、明確化されていないのが実状です。
 また、運動の内容に関しても、水泳や自転車、ジョギングなど漠然とした運動でしかなく、
 運動習慣のない患者では、実践や継続につながらない可能性は高いと思います。
 継続的な運動は、日常生活に組み込めるような運動であり、天候や時間に左右されないことが
 望ましいですが、効果的な運動療法の詳細についても明らかではありません。

 日本では透析患者の原疾患として、糖尿病腎症の割合が最も多く、40%以上を占めています。
 糖尿病腎症の悪化を防ぐべく、糖尿病透析予防管理料が制定され、糖尿病腎症に対し、
 医師のみでなく、コメディカルを含んだチーム医療で包括的に行われるべきとされています。
 糖尿病治療薬は、様々な国や企業で急ピッチで開発が行われ、次々と新薬が発表されています。
 また、糖尿病の食事療法についても、食品交換表やカロリー制限をはじめ、最近では糖質制限食や
 低GI食などについての研究も行われています。

 腎疾患患者への運動療法は、最近になって効果が認められ、今後、更に研究が進められると
 期待されている分野です。
 運動療法においても、さまざまなオプションが開発され、個人により継続できる運動療法を
 選択できるようになっていくべきと考えます。


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